「スマホに届く緊急速報メールで読み上げられる地名が間違いだらけ。命が失われる事態につながりかねません」。7月の記録的大雨で大きな被害があった福岡県うきは市の40代女性から、西日本新聞「あなたの特命取材班」に投稿が届いた。発信側の自治体にも同様の声が寄せられている。誤読はなぜ起こるのか。解決策はないのか。
(西日本新聞・仲山美葵)
「妹川いもがわ」を「いもうとがわ」、「新川(にいかわ)」を「しんかわ」、「田篭(たごもり)ごもりを「たかご」…。女性は、うきは市に大雨特別警報が出た7月10日以降に相次いで届いた緊急速報メールを自動音声で聞き、間違いの多さに驚いた。同13日には同市の妹川で実際に土砂崩れが発生。幸いけが人はなかったが「この辺りはお年寄りも多い。どうにかしないといけないのでは」と心配する。
緊急速報メールは、国や自治体が災害や避難の情報を、特定エリア内のスマートフォンなどの携帯電話端末に一斉配信する仕組みだ。ただし配信は文字情報のみ。受け取るスマホ側の機能によって自動的に読み上げられる。その性能に左右されるため、現状では正確性は不十分。知らずに聞いて戸惑う人が少なくない。
視覚障害があり、普段から読み上げ機能を使っている福岡市の男性は「読み間違いはあるものと思い、頭の中で修正しながら聞いている」と打ち明ける。
熊本県宇城市には「宇城市三角町(うきしみすみまち)」を「うしろしさんかくまち」と読み上げるなどの間違いに指摘が相次いだ。昨年1月、市はウェブサイトで「市では対応できない」などと説明。漢字に続けて読み方を付けることも検討したが「必要としない人は不自然に思うと考え、漢字表記のみにしている」(防災消防課)。
行政側の情報発信を巡っては、障害のある人がない人と同様に受け取れるような配慮が求められる。
総務省は、自治体が地名などの情報を発信する際には読み方を書くよう推奨。しかし読み方を補っても、例えば「田篭(たごもり)」と書くと「たかごたごもり」などと読み上げられてしまう。読み上げ機能の改善も一部で進んでいるが、完全に間違いがない状態は程遠い。
浜松市は昨年から、読み間違いが多い地名や河川名を平仮名で書くようにした。例えば「芳川(ほうがわ」はメールでは「ほうがわ」と書く。市危機管理課は「聞く人は分かるし、見る人も分かるはずだ」と説明する。
防災に詳しい「内閣府地域防災マネージャー」の吉田英紀さんは「自治体は情報を正しく伝えるため、平仮名表記などあらゆる努力をするべきだろう。緊急速報メールで異変に気付いた人が内容を確認できるよう、SNS(交流サイト)などさまざまな方法で同様の情報を発信しておく必要がある」と話した。
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