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具志堅さんのハンスト 訴え続ける「戦没者の尊厳」 藤原健<おきなわ巡考記>


具志堅さんのハンスト 訴え続ける「戦没者の尊厳」 藤原健<おきなわ巡考記> 藤原健さん(本紙客員編集委員)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 沖縄戦の遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」の代表、具志堅隆松さん(69)が10~12日まで那覇市の県庁前に座り込んだ。「戦没者の尊厳を守るためのハンガーストライキ」である。決行直前に作成された趣意書を改めて読む。文面は工事着工が12日に予定されていたことを前提にしているが、主張の根幹に変わりはない。

 <埋め立て土砂の採取地決定は知事の承認事項>と書き出し、こう続く。

 <辺野古基地建設に、激戦地である沖縄南部地区の土砂が使われる埋め立て設計変更申請は、玉城デニー知事の不承認により止まっていたが、国土交通大臣の代執行により始まる見込みとなった。しかし、埋め立て承認の際の留意事項では、「工事の実施設計について事前に県と協議を行うこと」、「土砂採取場所を変更する場合は知事の承認を受けること」と定められているように、埋め立て土砂の採取地決定は知事の承認事項である。知事は、「実施設計の事前協議」で、戦没者の尊厳を守るために、土砂採取計画から南部地区を外すように毅然(きぜん)とした態度で臨むべきである>

 <沖縄戦では20万人余りの戦死者を出した。激戦地の南部地区にはいまだに多くの住民や日本兵の遺骨が埋もれている。戦後、政府が全国の戦没者遺族の元へ届けた遺骨箱の中に入っていたのは、ほとんどが遺骨ではなく御霊(みたま)石であった、御霊石とは戦没地の石で、その石には戦没者の魂がこもっているという意味である。今回、防衛局は、戦没者の血と魂を吸い込んだ南部の御霊石を住民や日本兵を殺したアメリカ軍の基地を作ってあげるために海に捨てようとしているのだ。これは先に国が行った慰霊行為を自ら否定するだけでなく、戦没者に対する裏切りであり、冒涜(ぼうとく)である>

 <防衛局は南部地区からの土砂採取計画の撤回要請に対し、「まだ決まってない、受注業者が決める」と繰り返している。しかし、公有水面埋め立て法施行規則第3条では、埋め立て願書に「土砂の採取場所」を記載するよう定めており、「採取予定地」しか示さないのは書類不備でもある。防衛局は激戦地の土砂を埋め立てに使うという非人道的行為に対する批判を工事の受注業者に向けさせようとしている>

 そして、こう結ぶ。

 <知事は県民・国民や全国の遺族のためにも、毅然とした態度で人道無視の防衛局による南部地区の土砂使用計画を撤回させるべきである>

 代執行訴訟判決は沖縄側の主張を退け、「辺野古が全て」の国の姿勢を追認した。これを根拠にし事前協議も無視しての着工である。

 しかし不意打ち的強行をいかに重ねようとも、沖縄戦以降、沖縄に忍従を強いた過重な基地負担から生じる諸課題は山積したままだ。この間、戦没者の遺骨、骨片、血のしみ込んだ土砂を米軍基地建設に供するという反人道性について具志堅さんは繰り返し問うた。そして今、「代執行であっても、やってはならないことがある」と。国民を「戦争死」に追い込んだ責任は消えるはずがないのだ。

 (元毎日新聞大阪本社編集局長、那覇市在住)