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【寄稿・辺野古着工】新たな「沖縄戦」許すな 日米合意墨守の無為無策 高橋哲哉氏(哲学者)


【寄稿・辺野古着工】新たな「沖縄戦」許すな 日米合意墨守の無為無策 高橋哲哉氏(哲学者) 沖縄県名護市辺野古の大浦湾側で工事に着手し、作業船から石材を投入する重機(奥)と船上から抗議の声を上げる人々=10日
この記事を書いた人 Avatar photo 共同通信社

 米軍普天間飛行場の移設を巡り、政府は地盤改良工事の設計変更承認を代執行し着工に踏み切った。強硬な姿勢の先に見えるものは何か。沖縄基地問題を論じてきた東京大名誉教授の高橋哲哉さんに寄稿してもらった。

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 米軍普天間飛行場の移設先とされる沖縄県名護市辺野古地区で、大浦湾の埋め立て工事を巡り国の代執行が行われ、工事が着手された。選挙や県民投票で示されてきた沖縄の民意を顧みず、「辺野古が唯一の解決策」と称して基地建設を強行する政府のやり方は、これが初めてではないが、あまりに乱暴だ。政権側に対話による解決の意志がなくなって久しく、「日米合意」を墨守するだけの思考停止、無為無策に陥っていると断じざるをえない。

 ただしこれは、政府だけの問題ではない。沖縄が米軍基地の過剰負担にあえぐ状況を放置してきたのは、歴代政権の安保・基地政策を追認してきた「本土」の社会と有権者(沖縄を除く、全国の有権者の99%)の責任でもあるからだ。

 また、米軍基地だけの問題でもない。政府は中国の脅威を理由に自衛隊の「南西シフト」と称し、沖縄島以外の琉球諸島にも自衛隊基地を建設してきた。奄美大島から宮古島、石垣島に地対空、地対艦のミサイル部隊が配備され、最西端の与那国島にも監視部隊に加えミサイル部隊の配備が予定されている。琉球諸島全体があっという間に、「台湾有事」の際の対中国の軍事要塞(ようさい)にされているのだ。「本土」の有権者はこのことを果たしてどこまで知っているだろうか。

 安倍政権下で成立した安保法制により、政府は現状でも、「台湾有事」が起きて中国軍と台湾軍・米軍が戦闘状態に入れば、日本の「存立危機事態」などと認定し、中国軍との交戦が可能だと考えている。日本全体が「戦時」となるが、まずは台湾に近い琉球諸島が戦場となり、自衛隊が中国軍の攻撃を迎え撃つことになる、と想定している。その時、琉球諸島の人々はどうなるのか。土地は、資産は、どうなるのか。

 私たちは嫌でも、ガザやウクライナで起きていることを想起せざるをえない。逃げ場のない狭小な地域にとり残された住民が、移動を強いられながら砲弾の雨にさらされ、甚大な犠牲を出した沖縄戦。沖縄の人々は今、ガザの惨状をどんな思いで見ているのか。日本政府と「本土」有権者は、新たな「沖縄戦」だけは絶対に許してはいけないのではないか。

 日米の構造的差別のもとで軍事植民地的状況に呻吟(しんぎん)してきた沖縄と、米国が支援するイスラエルによりアパルトヘイト状態に置かれ、出口の見えない日常が続いていたガザ。私たちは、日本の中に「もう一つのガザ」をつくりだしてはいないか。

 「台湾防衛」のために「戦う覚悟」が必要とか、日本は「潜水艦や軍艦で」戦うとか、政治家の危うい発言が続いている(麻生太郎元首相)。ひとたび戦争になれば、誰が犠牲になるのか。やめるのがどれほど難しいか。沖縄戦を想起し、ガザやウクライナの現状を直視して気付くべきだ。


 たかはし・てつや 1956年福島県生まれ。哲学者。著書に「犠牲のシステム 福島・沖縄」「沖縄の米軍基地」「日米安保と沖縄基地論争」など。

(共同通信)