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沖縄から客迎え、直後に被災 能登半島地震 料理が自慢の宿、再起へ 


沖縄から客迎え、直後に被災 能登半島地震 料理が自慢の宿、再起へ  「一能登島」支配人の麻里さん(左から3人目)、オーナーの中永勇司さん(同4人目)ら=2023年11月、石川県七尾市・能登島の同館(同館提供)
この記事を書いた人 Avatar photo 前森 智香子

 石川県の七尾湾に浮かぶ能登島には豊かな自然が広がる。その美しい景色と、地元の食材を生かした料理が自慢の宿泊施設「一能登島(ひとつのとじま)」で支配人を務める麻里さん(名字非公表)。能登半島地震で島につながる橋が一時通行止めとなり、沖縄からの宿泊客の対応に奔走した。「何とか無事に空港に送り届けられたが、つらい思いのお見送りになった。残念だし悲しい」と振り返った。 

 2023年9月、北陸初のすしのオーベルジュ(食事を主目的とする宿泊施設)として七尾市の能登島でオープンした。元日、那覇市の会社員山城洋貴さんと母の裕子さんを出迎えた。沖縄からの来館は開業以来初めて。沖縄県内のホテルで3年間勤務した経験のある麻里さんは「私が沖縄を好きなように、沖縄の方が能登を好きになってくれたらいいな」と感じた。

 午後4時すぎ、経験のない激しい揺れに襲われた。営業継続は難しいと判断。スタッフが宿の車で山城さん親子を高台に案内した。大津波警報が出され、麻里さんも慌てて避難した。余震が続き、警報音やサイレンが響く中、夜を明かした。

 翌朝、大津波警報が解除された。島にかかる橋は通行止めになり、孤立状態に。宿泊客を島外へ避難させたい―。船での移動を模索していたところ、スタッフが片側通行で橋を渡れるとの情報をつかんだ。昼前に山城さん親子を乗せて車で島を出て、東京から駆けつけたオーナーの中永勇司さん(48)=金沢市出身=と合流。4人で小松空港に向かった。

 平時は空港まで約90分。だが道は崩落や亀裂で通行止めも多く、思うように進まない。4時間以上かけ、ようやく到着した。見送り後、目から涙があふれた。「せっかく正月に来てくれて、良いおもてなしをしたくて準備も整えていたのに達成できなかった。こんなに悲しいお見送りは初めて。本当に申し訳ない」

「一能登島」から能登島大橋へ向かう途中の崩落した道路=1月、石川県七尾市・能登島(「一能登島」提供)

 1月3日に帰沖した山城さん。地震発生時、オーシャンビューの客室の窓から小さな島が崩れ落ちるのを目の当たりにした。「正直、『終わった』と思った」と振り返る。「しばらく帰れないだろうと思っていたが、予定通りの日にけがなく帰れた。被災して大変な中、空港まで送ってくれるなんて、普通はできない」と感謝する。

 麻里さんは「ガソリン不足の不安は、なくはなかった。ただ、先のことより今できることをやろうと思った」と話す。被災の影響は大きいが、宿泊客全員が帰宅できたのがせめてもの救いだ。

 水道の復旧は4月以降とみられ、5月1日の営業再開を目指す。漁業や酒造業も甚大な被害を受け「能登全体が危機的状況」だ。地元食材を使っており「能登の産業と文化を守るためにも、微力だができることをやっていきたい」と前を向く。

 1月26日からクラウドファンディング(CF)を始め、修繕資金などを募っている。CFサイトは「キャンプファイア 一能登島」で検索。
 (前森智香子)