那覇地裁で2月、刑事裁判の一部無罪判決が3件相次いだ。共通点は裁判所が検察側の主張・立証の一部を認めなかったことだ。
傷害や脅迫の罪が問われ、無罪となった2事件は検察が控訴せず判決が確定。残る組織犯罪処罰法違反(犯罪収益仮装)事件の控訴期限が5日に迫る。マネーロンダリング(資金洗浄)防止を狙う捜査機関は、同法での摘発に力を入れており、他の事件への影響を懸念する声も上がる。専門家は無罪判決の連続は「偶然」としながらも、検察による安易な法の適用拡大にくぎを刺す。
組織犯罪処罰法で無罪判決が出たのは、20代男性が盗んだクレジットカードでたばこ2点を買った単独犯の事件。裁判の争点はたばこを購入した行為についての法解釈だった。同法10条は犯罪収益を得る時、正当な取得であるかのように装う行為(仮装行為)を処罰対象としている。
■単なる買い物
公判で検察側は、男性が他人になりすまして署名をしてたばこを得たことに着目。正しい商品取引があり、たばこの所有者が他人であることを装ったと強調する。法定刑を引き上げた2022年の法改正の趣旨も踏まえ、同法違反として「厳正に処罰すべき」だと訴えた。
弁護側は、買ったのはその場の男性と特定されており、署名には意味がないと反論。すぐに消費されるたばこは、犯罪収益の保持や運用が容易にならないとし「法の目的からかけ離れ、立法当時、想定しない拡張的な解釈運用である」と批判した。
判決は、処罰に当たる行為について、被害者や捜査機関による犯罪収益の追求が困難になる場合などと解されると前置き。男性の行為は手の込んだものでははく「単なる買い物」として、詐欺の有罪のみで事足りると判断した。
■「偶然」でも懸念
関係者によると、警察や検察はマネーロンダリングに対する国際的動向も踏まえ、同法違反を「積極的に処罰していく」傾向という。県内では今回と似た構図で有罪判決が確定した事件がある。同じ手口の別事件が公判中でもあり、関係者は今回の判決が「今後に関わる」と注視する。那覇地検は3月5日の期限までに控訴するかどうか検討を重ねている。
無罪判決が出たほかの事件は、暴力団と親和性のある男らと共謀したとする20代男性の傷害事件と、親戚を脅したとする20代男性の脅迫事件。傷害事件の判決は、関係者の公判供述などから男性の共謀を認めなかった。脅迫事件判決も関係者の公判証言などを基に「犯罪の証明がない」と判示。いずれも検察側が控訴せず、2月28日までに両判決が確定した。
相次ぐ無罪判決に、沖縄国際大学の中野正剛教授(刑事訴訟法)は「偶然が重なった」とみる。検察に対し、「起訴に当たり慎重に事案を精査し、安易な法適用の拡張につながらない運用が求められる」と指摘した。