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アヒル取り「神事」に異論 糸満ハーレー 識者、再考促す


アヒル取り「神事」に異論 糸満ハーレー 識者、再考促す 2023年の糸満ハーレーで行われたアヒル取り競争=6月21日、糸満市の糸満漁港(写真の一部を加工しています)
この記事を書いた人 Avatar photo 岩切 美穂

 【糸満】沖縄県糸満市で行われる糸満ハーレーのアヒラートゥエー(アヒル取り競争)について、県警が行事委員会の関係者を動物愛護法違反容疑で書類送検した件で、アヒル取りを巡る議論が再燃している。行事委はこれまで「地域の伝統」として継続する考えを示してきたが、伝統の一指標となる神事の観点について、識者から「アヒル取りは神事ではない」として、再考を促す声が上がっている。

 昨年6月、動物愛護団体が「アヒル取りは動物虐待だ」と県警に告発状を提出し、行事委側は「傷付けぬよう十分配慮している。地域に根付き親しまれている伝統だ」と説明していた。「海の神に大漁を祈り、アヒルを供物としてささげる神事の側面がある」とも一部で報道されていた。

 今月14日の市議会一般質問で市教育委員会は、市史に「中国で厄難を払う行事として古くから行われ、糸満のアヒラートゥエーはそれに倣ったものではないかといわれている」と記されているとして「神事と明確に記載されてはいないが、神事的要素を持つと認識している」と答弁した。

 一方、「糸満の歴史と文化研究会」主宰の金城善(まさる)さんは「供物ならノロ殿内や白銀堂で行われる神事でアヒルが扱われるはずだが、そんな場面はない。アヒル取りは神事ではない」と明言する。

 市教委などによると、糸満ハーレーのアヒル取りが始まった時期を明確に示す史料はない。金城さんは、戦前は現在の糸満漁港は整備されておらず外海と隔てられていなかったため、アヒルを海に放つと沖に流され、捕まえられる環境ではなかったとして「漁港が整備された戦後始まった余興だろう」と推察。「復帰間もない1970年代と比べても糸満ハーレーは大きく形を変え、イベント化が進んだ。伝統行事も時代と共に変遷する。アヒル取りも、批判があるなら再考してもいいのでは」と問題提起する。

 糸満高校郷土研究クラブが1965年6月に発行した共同調査報告「郷土研究1 糸満町の爬龍船」は、糸満ハーリー(当時の呼称)の神事や競技、余興を写真と共に紹介。アヒル取りについて「現在は余興として行われている。見物人が自由にあひるをとって、自分のものにすることができる」と記している。

(岩切美穂)

1965年当時のアヒル取りの光景。手前の男性がアヒル2羽を手にしている(糸満高校郷土研究クラブ刊「郷土研究1」より)
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