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地域防災力と観光 観光客のそばにいるのは 翁長由佳(サンダーバード代表取締役) <女性たち発・うちなー語らな>


地域防災力と観光 観光客のそばにいるのは 翁長由佳(サンダーバード代表取締役) <女性たち発・うちなー語らな> 翁長由佳
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 想像して下さい。皆さんが楽しみに訪れた観光地でもしも災害に巻き込まれたら? 土地勘のない場所でどこに逃げたらいいかわからなかったら? そこが外国で言葉が通じなかったら? 私の講演はいつもこの言葉から始まる。

 旅先でそんな状況に陥ってしまうと、私達は不安でとてつもなく怖い思いをすることだろう。そんな時、一緒に逃げようと手を差し伸べる人がいたら、日本語で状況を説明してくれる人がいたら、どれだけ心が救われることだろう。沖縄県では観光客が安全・安心に過ごせる観光地づくりに取り組んできた。

 4月3日の朝、私達は突然の津波警報に大いに動揺した。これまで想定していた「大きな地震」「その後の津波」じゃない状況。地震の揺れも感じないままに携帯に届くアラートも、テレビから聞こえるアナウンサーの緊迫した声も、これはヤバいやつ、と思わせるのに十分だった。観光危機管理に携わるようになってから、自分の住む場所は津波や浸水被害のない所を選んできた。母と娘の安全を確認後、関係している人達の状況確認、情報収集に動いた。

 所属する「災害プラットフォームおきなわ」のLINEグループには、続々とメンバーからの情報が集まってきた。その中でも特に気になったのは街中の外国人観光客への避難誘導指示だ。

 防災無線を聞いても状況がわからず、海の方向に向かう外国人がいたとの報告があった。近くにいたメンバーが多言語で呼びかけ、安全な方向への避難を促した。もしも、大きな津波が発生していたら、声をかける人がいなかったら、この観光客はどうなったのだろうか。

 観光客が多く滞在する沖縄では、東日本大震災を機に観光危機管理の取り組みを進めてきた。一方で、観光に携わっていない県民には伝わりにくく、浸透にはほど遠い。災害時、人の命に直面するさまざまな対応を進めるのは地域であり、その先に県民である私達がいる。団体旅行ではなく個人旅行がメインになった観光客の近くにいるのは、訓練を重ねた観光事業者ではなく、県民である可能性が高い。その時、私達はどう行動し、観光客の命を守ることができるのか。

 仲間の一人が、防災と観光危機管理は「出口の見えないトンネル」で、その取り組みが終わりを迎えることはないと言った。一人ひとりに取り組むことの大切さを伝え、訓練を繰り返して知識を増やし、地域が強くなることで変わる沖縄がある。暗闇のその先に小さくても光が見える。だからこの仕事は面白い。

翁長由佳 おなが・ゆか

 1970年生まれ、那覇市出身。大学卒業後、沖縄観光コンベンションビューローで26年間従事。2019年6月に県内初の観光危機管理に特化した「株式会社サンダーバード」を立ち上げ、危機に強い観光地の確立を目指し日々取り組んでいる。