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二つの提言 国連に文書で提出を 地方議会での議論が重要 阿部藹<託されたバトン 再考・沖縄の自己決定権>15


二つの提言 国連に文書で提出を 地方議会での議論が重要 阿部藹<託されたバトン 再考・沖縄の自己決定権>15 木原防衛相の断念表明を受け、笑顔や涙を見せる会見参加者=11日、うるま市の石川部落事務所
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 この連載では、2015年に当時の翁長雄志県知事が国連人権理事会で述べたことばである「沖縄の人々の自己決定権」の可能性を未来につないでいくために、一年余りにわたってその「自己決定権」について国際人権法の観点から多角的に検証してきた。

 独立国だった琉球国を強制的に併合し、土地や言語、そしてアイデンティティを奪った“ヤマト”出身である筆者が、沖縄の自己決定権について論じることを不愉快に感じた読者もいるだろう。私は琉球・沖縄の人々が自己決定権を有するのか、そしてどのような集団としてそれを主張するのか結論づけるつもりも、さらにはその議論に口を挟むつもりも毛頭ない。私がこの連載を通じて提示したかったのは、琉球・沖縄の人々が有する可能性だ。

 国際人権法における自己決定権は、まずは植民地や非自治地域の人々が独立する権利として出発し、その後先住民族の自治の権利、そして人民が内的自決を実現するための権利として発展・拡大してきた。近年では、先月紹介した「救済的分離」に関する議論も注目を集めている。

 沖縄の歴史や現在の人権状況を鑑みれば、その中のいずれを主張する場合にも一定の可能性を有していることを本連載では提示してきた。しかし、それらの選択肢について検証し、議論し、選択し、主張していく権利を有しているのは沖縄にルーツを持つ、沖縄の人々である。筆者は、沖縄の人々が持つ固有の権利が第一義的には日本という国家の中で(そしてもし沖縄の人々が望むならば日本という国の枠組みを超えて)実現していくことを心から願っている。

 そのためには、今後「自己決定権」に関する議論が沖縄の人々の間で活発に行われた上で、国連人権システムを活用して自らの権利を訴え、確立していくことが必要だ。そこで、二つの提言をして本連載を締めくくりたい。

 第一にあげるのは、国連人権システムへの継続的で「文書」を通じた働きかけの重要性だ。玉城デニー知事が昨年9月に国連人権理事会に参加し、口頭声明を行い、国連特別報告者などと面談をしたことについて、それらの行動を実のある成果に繋(つな)げ権利を実現していくためには、継続的な取り組み、特に国連人権システムのルールに則(のっと)った文書を作成・提出することが必要だと強調した。しかし、国連訪問から半年以上が経過した現在も、面談した特別報告者などに議論をフォローアップする報告書を提出したという話は聞いていないし、県庁のホームページなどで公表もされていない。

 国連は文書主義である。特別報告者や人権条約委員会に口頭で情報提供をした後には必ず「文書を提出すること」を求められる。それらがなければ彼らも行動に移すことができないからだ。翁長氏、そして玉城知事の国連人権理事会での行動を沖縄の人々の人権の向上や課題解決に繋げるため、長期的視野に立ち、文書を通じた情報交換を継続的に実行できる体制を沖縄県として整えることが必要だ。

 第二には、市町村、そして県議会などでの議論の重要性だ。玉城知事は、国連での口頭声明で「自己決定権」に触れなかった理由を記者から問われた際、「まだ十分県民の中で議論がされていない。これからの課題」と答えたが、確かにその後の県議会での議論を見ていれば、自己決定権について、そして沖縄の人々をどのような集団と捉えるのかについて、県議会でもさまざまな意見があり、継続的な議論が必要な状況だ。 “ヤマト”出身の筆者がこのような提言をすることが烏滸(おこ)がましいとは思いながらも、一人の国際人権法を研究する人間として真摯(しんし)に述べると、琉球・沖縄の人々が今後国際人権システムを活用して権利を力強く主張し実現していくためには、当事者である人々がこの点についてより深く議論し、共通項を見つけていくことが大きな鍵であると考える。現状、各市町村議会や県議会は沖縄にルーツを持つ議員が大多数を占めていることを鑑みれば、市民社会だけではなく、そのような場でも議論が行われることが重要だと思う。

 先日、うるま市のゴルフ場跡地での陸上自衛隊の訓練場建設について、木原稔防衛相が計画の撤回を表明した。「自衛隊訓練場設置計画の断念を求める会」の伊波常洋共同代表は、撤回を受けて「あまりにも横暴なやり方が住民の怒りに火を付け、保革を超えた団結を生んだ」こと、そして撤回は「住民の力だ」と語った。今回の計画撤回は、党派や立場、世代を超えて地元の人が意思を示すことで、国をも動かせる力になるということを力強く示してくれた。この「勝利」は、辺野古新基地建設が多くの県民の意思に反して進み続ける中で、沖縄が培ってきた民主主義の力を改めて示し、人々にとって大きな可能性を感じさせるものになったのではないか。

 そんな力を持った琉球・沖縄の人々が、様々(さまざま)な困難な状況や制約を超えて、そして考え方の違いを超えて、翁長雄志前知事が後世に託した「沖縄の自己決定権」というバトンを未来に繋いでいくことを願ってやまない。

 (琉球大学客員研究員)
 (おわり)