17日、米軍機で与那国町と石垣市を相次いで訪れ、陸上自衛隊の駐屯地などを視察したエマニュエル駐日米大使。住民らは、大使の行く先々で横断幕やのぼりを手に、この地域でこれ以上、軍事的な緊張を高めないでほしいと訴えた。米中対立を背景に中国へのけん制を狙い、米大使が先島諸島の自衛隊駐屯地を訪れるという異例の事態。住民の間では「頭越しで戦争の準備か」「米軍と自衛隊が一体化し、島が最前線に立たされる」などと懸念が高まっている。
17日午後1時42分ごろ、新石垣空港にエマニュエル大使を乗せた米軍機が着陸した。大使を乗せた車列は、空港前で抗議する「石垣島の平和と自然を守る市民連絡会」メンバーらの前を通過。午後3時過ぎに石垣駐屯地に入った。駐屯地では歓迎のラッパが鳴り響いた。同連絡会の井上美智子さん(70)は大使の来島に「本当にこの島を戦場にさせるのかとびっくりした。米軍のための自衛隊になっている」。大阪府出身で畜産業を営む夫に嫁ぎ、飼料は中国からも輸入している。大使が中国の経済威圧に対し、経済安全保障の重要性を強調したことに「中国とけんかしては生きていけない。米国の軍需産業のために住民を利用しないで」と求めた。「いのちと暮らしを守るオバーたちの会」の山里節子さん(86)も「戦争をあおっているのは米国ではないか。沖縄を次のウクライナにする気か」と怒りを込めて静かに語った。
駐屯地前で上原典子さん(74)は「島民がなおざりにされている。貴重な動植物や自然がいっぱいある島なのに」と唇をかんだ。沖縄戦で父が戦死し、祖母らも戦争マラリアで命を落とした。それから79年。台湾有事を念頭に先島諸島から九州の避難が計画されている。「一刻も早く島を空っぽにして軍事化したいのだろう。沖縄戦で沖縄をとりでにしたことへの後悔が政府にはないのか」と悔しさをにじませた。
与那国空港前では住民約10人が横断幕やプラカードを持ち、大使の訪問に抗議した。「神高い島に軍隊はいらない」と書いた横断幕を手にした狩野史江さん(64)は「恐れていたことが着々と進められている」と危機感を示した。同じく空港前でプラカードを手にした山田和幸さん(72)は「緊張を高めているように見える。これ以上島を壊さないで」と訴えた。
(中村万里子、照屋大哲)