台湾で戦争を体験し、戦後自らの体験を語り継いで非戦を訴え続けてきた「元全学徒の会」幹事の宮城政三郎さん(95)=那覇市=に、日本の高校にあたる台湾・高雄市立高級中学から名誉卒業証書が贈られることが決まった。校長が今月下旬に沖縄を訪れ、宮城さんに授与する。1945年、同校前身の高雄第一中学校に在学中、学徒兵として動員され、大勢の学友を失った宮城さんの思いと活動が「世界平和の理念を推進してきた」と評価された。
きっかけは昨年、本紙が宮城さんの戦争体験や平和への思いを、連載「東アジアの沖縄」で報じたことだった。
宮城さんは県立第一中学校4年だった44年夏、家族を頼り台湾の高雄に疎開した。高雄第一中学校に編入し、45年3月、台湾人の同級生らと日本軍の特設警備隊に動員された。作業中に米軍の空爆を受け、十数人の台湾人の学友が亡くなり、火葬して遺族に伝えたことは「たまらなかった」と振り返る。
本紙記事では、終戦で宮城さんが台湾から引き揚げる時、日本統治下で弾圧されていた台湾の人々が日本への怒りを爆発させる様子を目の当たりにしたことや、進学がかなわず敗戦の惨めさを思い知ったこと、疎開先の人々が「帰らなくてもいいよ」と優しく言葉をかけてくれたエピソードを紹介。戦争ではなく平和外交で解決する大切さを語った。記事を読んだ高雄市立高級中学の荘福泰(そうふたい)校長から知人を通し、本紙に連絡があった。
宮城さんは「台湾の方々の温情に、この世に生まれてきて良かったと感謝の思いでいっぱい。戦争で命を奪われた、平和な世に生きたかった学友の無念さを忘れてはならない。『みんな一緒だよ』と言ってくれた、優しい台湾の人々を忘れない」と胸を詰まらせた。
4日、高雄市立高級中学の卒業式で、宮城さんに名誉卒業証書が授与されることが発表され、宮城さんからのビデオメッセージも翻訳を付けて流された。式の様子は台湾の各メディアで大きく報じられ、反響を呼んでいる。
今月下旬に沖縄を訪れる同校の校長は、宮城さんが通っていた県立第一中学校の、後身にあたる県立首里高校とも交流を深めることにしている。
(中村万里子)