prime

<記者コラム>南へ行きたければ 宮沢之祐(暮らし報道グループ暮らし統括班)


<記者コラム>南へ行きたければ 宮沢之祐(暮らし報道グループ暮らし統括班)
この記事を書いた人 Avatar photo 宮沢 之祐

 とある小さな島で正月休みを過ごしたことがある。神戸新聞の記者をしていた30年前。泊まった民宿は居酒屋を併設していた。飲みに来るのは、宿泊客よりも地元の独身男性の方が多かった。

 内地から来たアルバイトの女性2人が店を切り盛りしていた。一人は19歳で、もう一人が20代前半だったか。あか抜けているけど、気さくな人気者だった。

 宿のあるじは、島に独身男性が多い現状を憂いつつ、バイトの女性と島の男性との縁談を成立させた件数を誇らしく語った。なるほど、2人と話していると鋭い視線を感じたのはそれでか(くどいていたわけではない。念のため)。

 2人は島がどこにあるかも知らずに、バイト募集の雑誌を見て来たという。声を潜めて「よく来たなぁ」と驚くと、こう返事があった。さらりと。「人は北を向いたら北へ行けるし、南を向いたら南へ行けるんです」

 神戸に戻った直後に阪神・淡路大震災が起きて2人から見舞いのはがきが届いた。礼状を出したきり、やり取りはないけれど、教えてもらった言葉は時々、胸の内でつぶやく。ちょっと元気が出る。

 それから後、休職してブラジルで2年過ごした。11年前に転職して京都で公立中学の教諭をした。実は大学卒業後の3年間も教員だった。この春、沖縄にやって来た。あっちこっち向きすぎでないか。いや、ずっと思っていることはある。現場で人と出会いたい。