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夏休みの憂うつ 子育ての「壁」いつまで 西銘むつみ(NHK解説委員) <女性たち発・うちなー語らな>


夏休みの憂うつ 子育ての「壁」いつまで 西銘むつみ(NHK解説委員) <女性たち発・うちなー語らな> 西銘むつみ
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 もうすぐ夏休みだ。子どもの頃は心躍ったが、親になると憂うつでしかなくなった。息子たちが大きくなった今も、この季節は苦い思いがよみがえってくる。

 長男が小学校に上がる頃、近所にはまだ、「学童保育」がなかった。夏休みも夕方まで預かってくれた保育園を卒業するやいなや、「小1の壁」が立ちはだかった。

 夏休み中は、夫の母の家で預かってもらい、お弁当を持たせていた。息子は午前中に宿題をして、正午過ぎに学校から聞こえてくるチャイムを合図にお弁当を食べ、即座に家を飛び出して公園で友達と遊んでいたらしい。

 ところが、ある日、お弁当を持って友達の家にお邪魔し、数人で遊んだと言う。慌てて友達の家にお礼の電話を入れると、電話口で「ママ友」が、自分の息子もお弁当を作ってほしいとせがむようになり困っていると明かした。日中遊ばせてもらった「ママ友」に迷惑をかけた気まずさと、「学童保育」さえあればこんなことにはならなかったのにと、環境を恨んだ。

 連動して思い出す「苦み」がもう二つある。

 東京勤務の頃、隅田川上空を彩る花火を見に来ないかと、あるご夫妻の自宅に招かれ、立地のいい高層マンションを訪ねた。人気があるマンションは抽せんになるが、自治体の少子化対策によって子どもがいる世帯が優先され、夫婦だけの自分たちは抽せんの機会が少なかったと、ぽつりと言った。胸がズキンとした。子どもがいることを望んでいたか否かはわからなかったが、どちらであっても施策の外側にある声を忘れてはいけないことだけはわかった。

 数年後、1児の母となった私は、育児休業の終盤にいた。保育園に通わせる準備のためベビー用品店に行くと、店内にいた4歳くらいの男の子と母親の会話が聞こえてきた。何かをねだる男児に対し母親が「いま、仕事をしていないから買えないの」となだめていた。その子は「じゃあ働けば?」と無邪気に言い放った。床に目を落とし黙ったままの母親の姿に、また、ズキンとした。

 育児、仕事、生きがい、収入。「あちらを立てればこちらが立たず」では、少子化は食い止められない。

 この間、「学童保育」の数や不妊治療にかかる費用、育児休業給付金など子育て支援策は充実に向け前進してはきた。ただ、そのスピード感は現状に追いついてはいない。

 朝、小学校の門が開く時刻まで子どもが独りぼっちになるため、仕事を辞めざる得ない「朝の小1の壁」も、依然として育児と仕事の両立を阻む。解決に向け県外の自治体が動き出したのは最近のことだ。

 若い世代が、沖縄の夏空のようにカラッと晴れやかな気持ちで育児ができる日が来てほしい。心から願う。

西銘むつみ にしめ・むつみ

 1970年生まれ、那覇市出身。92年NHK入局、沖縄局、首都圏放送センターで、沖縄戦、戦後処理、教育、旧環境庁、旧沖縄開発庁などを担当。NHKスペシャル「沖縄戦全記録」で日本新聞協会賞。