昨年12月に県内で発生した米兵による少女誘拐暴行事件の県などへの通報体制を問う沖縄大学土曜教養講座「米兵事件はなぜ隠されたのか―見えない壁の正体―」(共催・日本ジャーナリスト会議沖縄)が7日、那覇市の同大で開かれた。ジャーナリストの金城正洋氏、青木理氏が現場取材や警察組織の変遷を巡って報告し、議論を展開した。国の情報統制に対する危機感を共有し、性犯罪の被害者を守りながら事件防止につながる報道の必要性を確認した。市民や報道関係者などオンラインを含め約230人が参加した。
青木氏は、戦前の中央集権的な体制への反省から、「戦後の都道府県警察は独立した自治体警察として再出発した」と説明。一方で安倍政権以降は政権の中枢に警察庁出身のキャリア官僚が据えられていると指摘し「治安行政や犯罪捜査より、(時の政権の意向で動く)『政治警察』としての色合いが強まっている」と、メディアに対する情報統制の高まりを懸念した。
米兵による性犯罪を巡っては、海兵隊員を容疑者とする不同意性交致傷事件も報道で明るみに出たばかり。6月発生の同事件では、新たな通報体制の下で初めて県警が県に通報した。
青木氏は県への通報について、「被害者のプライバシーに配慮しつつ、広く県民に伝えて警鐘を鳴らすことで、結果的に性犯罪の発生を抑えられるなら当然必要な作業だ」と主張した。
昨年12月の事件発覚時、琉球朝日放送デスク(今年7月退社)だった金城氏は、同社の記者が那覇地裁で裁判の期日簿を確認して事件を知り、報道するまでの経緯を説明。「日米両政府を揺るがした」と、報道の重要性を強調した。
参加者からは、性犯罪を巡る報道表現のあり方や、教育現場で事件についてどのように教えているのかなどを問う質問が飛び交った。会場に足を運んだNPO法人「Wake Up Japan」の河野慧さん(28)は「報道がなければ新たな被害を生む。被害者のプライバシー保護と事件の公表は対立関係にはない」と、被害者のケアと再発防止の両立を訴えた。