prime

繰り返されてきた事故 「2台出し」やるべきではなかった 元警備員「国から搬入増要請」 <信なき現場 安和事故3カ月>(上のつづき)


繰り返されてきた事故 「2台出し」やるべきではなかった 元警備員「国から搬入増要請」 <信なき現場 安和事故3カ月>(上のつづき) 使用再開後、ネットフェンスを持った警備員が増えた安和桟橋前の事故現場。足元には花がささげられている=8月22日、名護市安和
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 辺野古新基地建設の土砂搬出に使われている名護市の安和桟橋前で6月28日に起きた死傷事故を巡り、沖縄防衛局は住民らの抗議活動を「危険・危害を及ぼす妨害行為」と決めつけ、工事作業を強行している。そうした防衛局の主張に対し、工事を現場で支えてきた人たちからも不信感が広がっている。

 「安和港内ではALSOK隊員の誘導に必ず従ってください」

 安和桟橋を出入りするダンプカーの運転手に、事業者側がLINEで送った業務連絡にはこう書かれている。警備員は、工事を進める側と、民意を無視した新基地建設を断念させたい市民が集まる現場の、安全を保つ要だ。安和では現在、綜合警備保障(アルソック)が担っている。

「ルール」破り

 「われわれは事故を起こさないために雇われている。『2台出し』なんて、やるべきではなかった」

 アルソックの警備員として安和で働いていた男性がそう振り返るのは、2023年3~4月ごろの出来事だ。

 現場警備員のまとめ役である「隊長」が「無理ない範囲でやっていこう」と2台出しを呼びかけたのだ。隊長からはその場で詳しい説明はなかったが、複数の同僚から「防衛局から搬入量を増やすよう要請があった」と聞いた。現場の共通認識だったという。

 しかし、2台出しは「抗議者が出口の片道を牛歩で歩いたら、ダンプカーを1台出す」という現場の「暗黙のルール」を破るものだ。別の警備会社が安和を担当していた時も一時期行われていたが、22年4月に接触事故が発生。「安全に誘導することが業務である警備会社が、台数のノルマを課されているかのような誘導をしている」(ヘリ基地反対協議会)と防衛局を通して市民から批判された手法だった。

ゲーム感覚

 隊長の呼びかけを聞いた男性は「リスクを背負ってやるものではない」と内心反対だったが、同僚は違った。休憩中に、他人と比べながら「(2台出しを)自分は何台もできた」と自慢する人もいたという。男性は「自己満足で、まるでゲーム感覚でやっている様子だった」と話す。

 そうした中、23年11月15日夕。抗議活動中の市民の左肩にダンプカーが接触する事故が起きた。

 「昨日の接触、大丈夫ですか。訴えるとかするんですか」

 翌朝、アルソックの隊長は抗議活動を続ける60代女性に尋ねてきた。女性によると「今後は(歩道を)渡り切ったことを確認してから、車を出すようにしますから」と伝えたという。「暗黙のルール」を厳守するという約束だった。

「言っても聞かない」

 しかし、その約束をした隊長も交代。今年6月になると、2台出しが繰り返されるようになる。

 「こんな荒っぽい誘導をしていると、また事故が起きるよ」

 同じ60代女性がまとめ役とみられるアルソックの警備員に注意した。

 「言っても聞かないんですよ」

 警備員はそう応じた。何に板挟みだったのか。3日後、そうした状況下で起きた死傷事故で、その警備員は亡くなった。


 アルソック広報部は、防衛局から搬入を増やすよう指示されたかを尋ねる本紙の取材に対し、「当社と防衛局など関係者の間ではさまざまなやりとりを行っており、その逐一についてお答えすることは差し控えるが、質問のような事実はない」と否定した。6月の事故原因の、社内での周知については「弊社の警備員が亡くなった不幸な事故で遺憾だが、事実関係は現在捜査中につき、回答は差し控える」としている。沖縄防衛局も「事故につながるような指示等は一切していない」とした。

 (南彰、金城大樹)