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[対談]佐藤優氏×平岡敬元広島市長「いま、ヒロシマが世界に発信すべきことは」 ゴルバチョフメモリアル 第2回人間の安全保障フォーラム


[対談]佐藤優氏×平岡敬元広島市長「いま、ヒロシマが世界に発信すべきことは」 ゴルバチョフメモリアル 第2回人間の安全保障フォーラム (右から)対談する佐藤優さん、平岡敬さんとモデレーターの渡部朋子さん=広島市の広島平和記念館メモリアルホール
この記事を書いた人 Avatar photo 宜保 靖

 ゴルバチョフメモリアル第2回人間の安全保障フォーラム(NPO法人ANT-Hiroshima、ゴルバチョフ財団日本事務所、特定非営利活動法人ひろしまNPOセンターで作る同フォーラム広島実行委員会主催)が5日、広島市の広島平和記念資料館メモリアルホールで開かれた。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏と平岡敬元広島市長が「いま、ヒロシマが世界に発信すべきことは」と題して対談。核のない世界を実現するには「米国の原爆投下責任を認めさせること」で一致した。また、佐藤さんは「米大統領選と世界の動向」をテーマに記念講演した。対談ではANT-Hiroshimaの渡部朋子理事長がモデレーターを務めた。(敬称略)

 (宜保靖)


原爆投下、米の責任追及を

 佐藤優 8月の平和記念式典に広島市は国家の立場でロシアとベラルーシを招待しなくなった。それは間違っていると思う。地方と国家は違っていいのだ。平岡さんは被爆朝鮮人問題に長年取り組み、原爆問題をアジアにも広げた功績がある。

 平岡敬 核戦争をどうやったら防げるか、ばかりを考えてきた。米国の責任を追及することは、心の狭い考え方だと思っていた。米国はいまだに謝ってはいない。何が悪い、と言わんばかりだ。許してはいけない。やはり原爆は悪いと認めさせることが大事だ。

 1952年の原爆慰霊の日に、東京裁判に関わったインドのパール判事が、「(原爆を)落とした側の手は清められてはいない」と指摘した。(原爆慰霊碑に刻まれた「過ちは繰返しませぬから」)は主語があいまいで、その決着をスルーしてきた。

 キューバ革命を主導した革命家のチェ・ゲバラは「なぜ米国に怒らないんだ」と、キューバのフィデル・カストロ国家評議会議長も、正当化できない米の責任に触れた。しかし、広島は米国の責任を追及しなかった。

 本当に核をなくすには、原爆投下は間違っていたと米国に認めさせることが大事だ。反省してはじめて和解の道が開ける。

 佐藤 戦時中の阿波丸事件(※)がある。米国政府も責任を認めた。今、米国の力は弱まっているので、誤りを認めさせるのは可能ではないか。

 平岡 広島の内にいると広島の平和行政が揺らいでいると感じる。米のパールハーバー国立公園と広島市の平和記念公園との姉妹公園協定の締結を米国から持ちかけてきた。米国は原爆攻撃を正当化したいからだろう。しかし、市民への説明がないまま松井一實市長は米国大使館へ赴き、調印した。広島の反核の声を無力化しようとする動きが顕著になったのは、2016年5月の米オバマ元大統領の広島訪問あたりからだ。オバマ元米国大統領に来てもらいたい日本側は、政府も広島も「謝罪を求めない」と表明した。平和記念公園でのスピーチでは原爆攻撃の責任には一言も触れなかった。広島市民は黙って聞いていた。それで米国は和解と思ったのではないか。

 昨年のG7広島サミットでは核抑止力を正当化している。

 佐藤 日米同盟をより深化させるため、原爆の投下責任を米国に認めさせるロジックは立てられると思う。核兵器を使わせないように声を上げることが重要だ。イスラエルがもし核兵器を使えば米国も見放すしイスラエルは終わってしまうことを、日本の首相はじめ直接対話で伝えていくことは大事だ。

 (※)阿波丸事件 太平洋戦争中の1945年4月1日、シンガポールから日本向け航行中の貨物船「阿波丸」が米海軍の潜水艦に撃沈され2千人以上が死亡した事件。日米間の協定で安全航行を保障されていた。日本政府は戦時国際法違反として抗議し米国政府も責任を認めた。


<平岡敬氏略歴>

 ひらおか・たかし 1927年生まれ。52年中国新聞入社。同紙編集局長、中国放送社長などをを経て、91~99年に広島市長。記者時代から原爆と平和問題に取り組み、95年にオランダ・ハーグの国際司法裁判所で核兵器の違法性を訴えた。


核兵器は絶対に使ってはならない 緊急アピール採択

 フォーラムでは冒頭、ゴルバチョフ財団日本事務所の山本行俊氏、琉球新報の新垣毅氏、吉田勝廣元金武町長が登壇しそれぞれあいさつした。

 ノーベル平和賞受賞者世界サミットの伊東玄聖副会長、ハクスン・ペク金大中平和アカデミー総裁、日本ゴルバチョフ友好平和財団友田勇生氏、西村峯満UPI会長、NHK元ワシントン支局長・作家の手嶋龍一氏、俳優の黒柳徹子さんがメッセージを寄せた。

 最後に「戦争とテロを含むすべての暴力に反対する。核兵器は絶対に使ってはならない」とする緊急アピールを採択して閉会した。