「えっ」。那覇市に住む50代の女性は、7月の電気代の明細を見て息を飲んだ。請求額は過去最高の約3万1千円。覚悟はしていたものの、数字を目の当たりにすると驚いた。気づけば食品も電気やガスも、生活用品も、何もかもが値上がりしている。「これ以上高くなると、どうすればいいのか」。終わりの見えない物価高騰に不安が広がった。
女性は2011年に夫を亡くし、中3から23歳の3人の子を1人で育ててきた。今は契約社員としてダブルワークをし、週6日働いている。生活は給与と遺族年金でなんとかやりくりしているがお金の不安は常につきまとってきた。職場の時給は少しずつ上がっているものの、物価の上昇率には到底及ばない。
2021年秋ごろから始まった食品の値上げは今年9月までにのべ6万品目を超え、10月は今年最多の約2900品目が上がった。
女性は節約のため外食を減らしたり、スーパーが安売りをしている時に買い物に行ったりするなどして工夫しているが、個人の努力には限界がある。「1個あたり数十円の値上がりでも、家族4人分となると、毎回の買い物は今までより数千円高くなった。しんどい」と打ち明けた。
今後控える大学、高校進学費用の工面にも頭を抱える。「生活は不安だらけ。政治家こそ、現実をちゃんと知ってほしい」。静かにつぶやいた。
政治に「現実的視点」を求める声は事業者からも上がる。今年、県の最低賃金は過去最高の56円引き上げで952円となった。資材高騰に加え人件費増大と負担は増す。北谷町の飲食店経営の男性は「生活維持のためにも賃上げは当然のことだが、それに伴う『年収の壁』が働き手にも、雇用側にも大きな問題となっている」と強調する。
社会保険料負担が発生する「年収106万」(従業員51人以上)、「130万円」(50人以下)を超えないために、働き手が労働時間を抑えた結果、企業の人手不足に拍車がかかる。最低賃金が上昇する一方で、この二つの「壁」が見直されることなく重くのしかかる。男性は「政府は根元を改善する政策を」と要望する。
また、沖縄市の飲食店経営の男性も同様の悩みを口にした。人手が足りず、閉店時間を早める同業者も出てきているという。「これでは、政府が求める消費活動の活発化も難しい。物価高だからこそ、安定して働ける環境づくりを考えてほしい」と訴えた。
(嶋岡すみれ、新垣若菜)