育児・介護休業法の改正による出生時育児休業(産後パパ育休)の創設や企業の育児休業取得推進の義務化などで、男性の育児休業取得率が上昇している。今年7月に厚生労働省が発表した統計では2023年度の男性育休取得率は30・1%で前年の17・1%を上回った。国は2025年までに50%を目標に掲げる。一方で、職場の人員確保や不在中の仕事を担う同僚への支援といった課題は横たわる。
27日投開票の衆院選でも「男性の育休」を巡る議論は低調だ。県内の育休取得経験がある男性らは「気兼ねなく誰でも活用できるような政策が必要」と求める。
「子どもとじっくり向き合うことで心からいとしいと思えた」。そう語るのは今年6月に第1子が誕生し、2カ月間の育休を取得した与那原町に住む40代の男性。管理職で、事務を担う所属部署では初の取得者だった。
抱えている業務の多さや収入が減ることへの懸念があり、分割取得も念頭に「まずは2カ月」と決めた。部下の業務負担を考慮して育休中は常に連絡が取れるようにし、緊急の場合は出社して仕事をこなした。大変な日々だったが妻との絆は深まり、2人で子どもの成長を喜んだ。
「後輩にも育休を取ってほしいが現場の人員不足など課題はある。個人の頑張りに頼るのではなく、休んでも仕事が回るように人員補充を支援する施策があれば、育休がより取りやすくなると思う」と要望する。
教員として働く那覇市の40代男性は1年間の育休を取得した。当時3歳の長男の世話に加え、生まれてくる子どもは双子。「片方だけの育休ではとても生活が回らない。僕が育休を取らないという選択肢はなかった」。職場では好意的な受け止め方が多く、事務の担当者も一緒に制度を調べてくれて心強かったという。
SNSを中心に、育休取得者や子どもの体調不良などで欠勤・早退しがちな社員を揶揄(やゆ)する「子持ち様」という言葉が使われるようになった。背景にあるのは仕事のしわ寄せを被ることへの不満だ。
男性は「正直に言うと自分も独身の頃は同じように感じていた」と複雑な思いを打ち明ける。その上で「働き方や対価といった、それぞれの希望がかなう職場環境を整えることが大事だと思う」と語った。
労働問題に詳しい特定社会保険労務士の岡輝一さんは「育休取得がマイナス評価につながらないという安心感が必須。企業や個人の意識変革が必要で、国は出生時育児休業の義務化など大胆な提案を掲げてほしい。国会では業務をフォローする人の意見もすくい上げ、多様な価値観をテーブルに載せることが必要だ」と思いを述べた。 (赤嶺玲子)