天文学者を志して沖縄を飛び出してから、30年の月日が経過した。仙台、パリ、カリフォルニア、シカゴとさまざまな土地を渡り歩き、気づけばハワイでの生活も18年目に入っている。まさか沖縄より長くハワイに住むことになるとは思いもしなかった。かつては天文学の研究に没頭していたが、ここ10年は教育、人材育成、地域連携に力を注ぎ、科学と社会の新たな結びつきを模索している。教え子たちが科学者やエンジニア、アーティストとして活躍する姿を見ると、蒔(ま)いた種が花開くのを実感し、喜びが込み上げる。
私生活では、結婚、出産、離婚を経験し、今はシングルマザーとして子育てに奮闘中だ。まるで嵐の中を進む船のような日々だが、周囲の支えにより、何とか難破せずに航海を続けている。
世界の情勢もまた、荒波の中にある。地球温暖化、ウクライナ戦争、欧米社会の分断、コロナ後のインフレ、円安、少子高齢化――未来への不安が募るのは避けられない。しかし、科学技術、特にAI(人工知能)の進化は目覚ましい。AIは業務の効率化を進める一方で、職業の再編をもたらすだろう。
だからこそ、これからの時代には「チムグクル(肝心)」、つまり思いやりや真心がますます重要になると考える。AIが多くのタスクをこなす時代でも、人とのつながりや「心」を扱う仕事、特に医療や介護、教育、福祉などの分野は、AIには代替できない。これらの分野では、寄り添いや共感といった人間にしかできない役割が求められるからだ。
さらに、創造性やリーダーシップの分野においても感情的知性(EQ)の重要性は揺るがない。共感や直感を駆使してチームを導き、困難を乗り越える力は、AIには真似(まね)できない。進化するAIの時代にあってこそ、EQや柔軟なコミュニケーション能力を磨くことが不可欠だ。
今日は沖縄で衆議院選挙の投開票日だ。選挙もまた、未来を選び取る行為である。私たちは科学技術の進化を享受する一方、人間らしさをどう守り、育んでいくかを考えなければならない。チムグクルを大切にする社会では子育てや介護も一人で背負うのではなく、地域全体で支え合うものだ。そうした社会を築きながら、豊かで調和の取れた未来を創造していくことが、ウチナーンチュとしての私たちの使命ではないだろうか。
1976年生まれ、那覇市出身。国立天文台とTMT国際天文台所属の天文学者。東北大学卒業後、ハワイ大学院、パリ天体物理学研究所、カリフォルニア工科大学、シカゴ大学で研究に従事。教育普及マネージャーとしてハワイや日本の人々に宇宙の魅力を伝えている。