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<判決要旨>辺野古抗告訴訟


<判決要旨>辺野古抗告訴訟 沖縄県名護市辺野古の沿岸部(共同通信)
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 2023年(行ウ)第22号変更不承認処分の取消裁決の取消請求事件

 原告 沖縄県

 被告 国

 判決要旨

 那覇地方裁判所民事第1部合議A係

 裁判長裁判官藤井秀樹

 裁判官島尻大志

 裁判官佐藤壮一郎

 頭書事件の判決要旨は以下のとおりである。なお、下線を付した部分が、判決骨子に該当する箇所である。

 第1 結論(判決主文)

 1 本件訴えを却下する。

 2 訴訟費用は原告の負担とする。

 第2 事案の概要及び争点

 1 事案の概要

 沖縄防衛局は、沖縄県宜野湾市所在の普天間飛行場の代替施設を同県名護市辺野古沿岸域に設置するため、沖縄県知事から、公有水面埋立法(以下「埋立法」という。)42条1項に基づく公有水面埋立ての承認処分(以下「本件承認処分」という。)を受けていた。この公有水面の埋立てに関し、沖縄防衛局は、沖縄県知事に対し、埋立法42条3項において準用する同法13条ノ2第1項に基づき、埋立地の用途及び設計の概要に係る変更の承認の申請(以下「本件変更申請」という。)をしたところ、沖縄県知事は変更を承認しない旨の処分(以下「本件変更不承認処分」という。)をした。これに対して、沖縄防衛局が、本件変更不承認処分について、地方自治法255条の2第1項1号の規定(以下「本件規定」という。)に基づく審査請求(以下「本件審査請求」という。)をしたところ、国土交通大臣は、本件変更不承認処分を取り消す旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。

 本件は、原告が、本件裁決に不服があるとして、行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条3項に基づき、その取消しを求める事案である。

 2 争点等

 本件では、本件訴えの適法性が争われており、主要な本案前の争点は、原告が本件裁決の取消しを求める訴えを提起する適格を有するか否かである。このほか、原告は、行訴法9条1項が定める原告適格を有する旨の主張もしている。

 原告は、本案について、本件変更申請について埋立法42条3項において準用する同法13条ノ2第1項並びに同法42条3項において準用する同法13条ノ2第2項において準用する同法4条1項1号及び2号の各規定の要件を充足しておらず、本件変更不承認処分に瑕疵はない一方、本件裁決は権限を濫用したもので違法である等の主張をしている。

 第3 理由の要旨

 1 判断枠組み

 (1)行政不服審査法は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とするものである(同法1条)。同法により、行政庁の処分の相手方は、当該処分に不服がある場合には、原則として、処分をした行政庁(以下「処分庁」という。)に上級行政庁がない場合には当該処分庁に対し、それ以外の場合には当該処分庁の最上級行政庁に対して審査請求をすることができ(同法2条、4条)、審査請求がされた行政庁(以下「審査庁」という。)がした裁決は当該審査庁が処分庁の上級行政庁であるか否かを問わず、関係行政庁を拘束するものとされている(同法52条1項)。

 (2)都道府県知事その他の都道府県の執行機関の処分についての審査請求は、上記(1)の行政不服審査法の定めによれば、原則として当該都道府県知事に対してすべきこととなるが、その例外として、当該処分が法定受託事務に係るものである場合には、本件規定により、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、当該処分に係る事務を規定する法律又はこれに基づく政令を所管する各大臣に対してすべきものとされている。その趣旨は、都道府県の法定受託事務に係る処分については、当該事務が「国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるもの」という性質を有すること(地方自治法2条9項1号)に鑑み、審査請求を国の行政庁である各大臣に対してすべきものとすることにより、当該事務に係る判断の全国的な統一を図るとともに、より公正な判断がされることに対する処分の相手方の期待を保護することにある。

 また、本件規定による審査請求に対する裁決は、地方自治法245条3号括弧書きの規定により、国と普通地方公共団体との間の紛争処理(同法第2編第11章第2節第1款、第2款、第5款)の対象にはならないものとされている。その趣旨は、処分の相手方と処分庁との紛争を簡易迅速に解決する審査請求の手続における最終的な判断である裁決について、更に上記紛争処理の対象とすることは、処分の相手方を不安定な状態に置き、当該紛争の迅速な解決が困難となることから、このような事態を防ぐことにあるところ、処分庁の所属する行政主体である都道府県が審査請求に対する裁決を不服として抗告訴訟を提起することを認めた場合には、同様の事態が生ずることになる。

 (3)以上でみた行政不審査法及び地方自治法の規定やその趣旨等に加え、法定受託事務に係る都道府県知事その他の都道府県の執行機関の処分についての審査請求に関し、これらの法律に当該都道府県が審査庁の裁決の適法性を争うことができる旨の規定が置かれていないことも併せ考慮すると、これらの法律は、当該処分の相手方の権利利益の簡易迅速かつ実効的な救済を図るとともに、当該事務の適正な処理を確保するため、原処分をした執行機関の所属する行政主体である都道府県が抗告訴訟により審査庁の裁決の適法性を争うことを認めていないものと解すべきである。

 そうすると、本件規定による審査請求に対する裁決について、原処分をした執行機関の所属する行政主体である都道府県は、取消訴訟を提起する適格を有しないものと解するのが相当である(最高裁令和4年(行ヒ)第92号同年12月8日第1小法廷判決(以下「令和4年最高裁判決」という)判例タイムズ1508号46頁参照)。

 2 本件についてのあてはめ

 これを本件についてみると、沖縄防衛局がした本件変更中請に係る沖縄県の事務は、埋立法により地方公共団体が処理することとされた事務であり第一号法定受託事務であって、本件裁決は、本件規定による本件審査請求に対するものである。そうすると、原処分である本件変更不承認処分をした執行機関である沖縄県知事の所属する行政主体である原告は、本件裁決の取消訴訟を提起する適格を有しないというべきである。

 したがって、原告が提起した本件の訴えは不適法である。

 3原告の主張について

 (1)原告は、憲法において地方自治が定められているのであるから、本件のように埋立法に基づき地方公共団体に公有水面の埋立て免許・承認に係る事務ないし権限が与えられているのに、行政権によりこの事務ないし権限が侵害されたときは、それ自体が自治権の侵害になるのであり、これを是正するために抗告訴訟が認められるべきであると主張する。

 しかし、法定受託事務は「国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要がある」という性質(地方自治法2条9項1号)を有するのであって、地方公共団体の固有の自治権に含まれるものとは解されない。この点、埋立法の規定についてみても、埋立てにより周囲に生ずる支障の有無等につい てはその地域の実情に通じた都道府県知事が審査するのが適当である等の点から公有水面の埋立てに係る免許・承認に関する事務(同法13条ノ2で準用される場合を含む。)は都道府県知事の権限としつつも、公有水面は、国の所有に属するものとして、国が、本来、公有水面に対する支配管理権能の一部として、自らの判断によりその埋立てをする権能を有すると解される定めを設け(同法1条)、都道府県知事の職権に対し国土交通大臣の監督に関する定めを設けている(同法47条)のであって、公有水面の埋立てに係る免許・承認に関する事務は固有の自治権に含まれるとはいえないというべきである。

 したがって、都道府県知事がした法定受託事務に係る処分等に対してされた本件規定に基づく審査請求に係る裁決に対し、当該処分等をした都道府県知事が所属する行政主体である都道府県が抗告訴訟により審査庁の裁決の適法性を争そうことが認められなくとも国が固有の自治権を侵害するとはいえず、地方自治の本旨に反するまではいえないというべきである。

 (2)原告は、本件訴えに係る紛争は法律上の争訟に該当するから、原告による出訴を認めないことは憲法76条2項に抵触すると主張する。

 裁判所がその国有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」、すなわち当事者間の具体 的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる(最高裁昭和51年(オ)第749号同56年4月7日第3小法廷判決・民集35巻3号443頁(以下「昭和56年最高裁判決」という。)参照)。ところで、国又は地方公共団体が提起した訴訟であって、財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には、法律上の争訟に当たるというべきであるが、国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目 的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできないから、法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではなく、法律に特別の規定がある場合に限り、提起することが許されるものと解するのが相当である(最高裁平成10年(行ツ)第239号同14年7月9日第三小法廷判決・民集56巻6号1134ページ(以下「平成14年最高裁判決」という。)参照)。

 そうすると、行政主体が私人と同様の立場で自己の権利利益の保護救済を求めて訴えを提起する場合には法律上の争訟に該当すると認められるが、行政作用を担当する行政主体としてする訴訟であって、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものについては、法律上の争訟には当たらないというべきである。

 本件において、原告は、本件裁決の取消しを求めているところ、本件変更不承認処分が、埋立法が沖縄県知事に委ねた埋立地の用途の変更や設計の概要の変更に関する承認権限(同法13条ノ2第1項、42条1項)に基づくものであることからすれば、本件訴えは、原告が、沖縄県知事による前記の同法上の変更承認権限の行使が適正であったことすなわち、本件変更申請が本件各規定の要件に適合しないという判断が適正であったことを主張して、本件裁決を取り消し、前記変更承認権限の回復を求めるものであるといえるから、自己の権利利益の保護救済を求める訴えとはいえず、埋立法という法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とした訴訟であると解される。したがって、本件訴えは、法律上の争訟に当たらないというべきである。

 これに対し、原告は、平成14年最高裁判決について、i平成14年最高裁判決は「国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として」「国民に対して」「行政上の義務の履行を求める訴訟」に限定されるべきところ、本件は2つめ、3つめの点において事案を異にすること、II法律上の争訟概念に根拠なく私権保護目的を必要とするという要素を読み込んでおり、刑事事件が法律上の争訟に当たることを説明できないこと、III片面的な法律上の争訟該当性を認めることになって不当であることなどを指摘する。

 まず、iの指摘については、平成14年最高裁判決は、「行政事件を含む民事事件において裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象」として、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に関する判断をしたことは、その判示から明らかである。そして、「法律上の争訟」については、昭和56年最高裁判決の判示に従い、行政訴訟のうち個人的な権利利益の保護救済を目的とする主観訴訟(抗告訴訟及び当事者訴訟)は「法律上の争訟」として裁判所の本来的な裁判権に属するが、個人の権利利益の侵害を前提にしない客観訴訟(現行制度として民衆訴訟や機関訴訟)は、「法律上の争訟」には当たらないものの、裁判所法3条1項後段が定める「その他法律において特に定める権限」として裁判所の裁判権の範囲に属するものとされたとの見地から、当該事案に対する判断を示したものと解される。そうすると、平成14年最高裁判決は、自己の権利利益の保護 救済を目的とするかという観点から、国又は地方公共団体が提起する訴えについて、法律上の争訟性を検討したものといえるのであって、原告が指摘する「国民に対して」「行政上の義務の履行を求める訴訟」の各要件を踏まえて法律上の争訟性を否定したものとは解されないから、これらの点が本件の事案とは異なるとしても、本件において参照でぎないことにはならないというべきである。

 次に、IIの指摘については、iの指摘の検討において説示したとおり、平成14年最高裁判決は、「行政事件を含む民事事件において裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象」として、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に関する判断をしたのであるから、刑事事件との関係で法律上の争訟性について判断をしたものではない。そして、平成14年最高裁判決は、昭和56年最高裁判決が示す法律上の争訟の概念に従って、国又は地方公共団体が提起する訴えについて法律上の争訟に該当するか否かの要件を明示したものであると解され、前記の法律上の争訟の概念に要件を付け加えるものとはいえない。

 さらに、IIIの指摘については、既にi及びIIの指摘に関して検討したとおり、国又は地方公共団体が提起した訴えが、個人的な権利利益の保護救済を目的とするものではなく、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的としたものである場合には、法律上の争訟に当たるとはいえないから、当然に訴えの提起が許されるとはいえないし、特にそのような訴えの提起を許す法律上の規定も見当たらないから、「その他法律において特に定める権限」があるともいえない。したがって、前記の場合には、国又は地方公共団体について、憲法上裁判を受ける権利が保障されているとはいえないから、IIIの指摘する結果になるとしても、憲法上の問題が生ずるとはいえない。

 (3)原告は、本件の事案は、令和4年最高裁判決の事案と異なることから、同判決の射程は本件には及ばないと主張する。

 しかしながら、令和4年最高裁判決の判示事項は、「地方自治法255条の2第1項1号の規定による審査請求に対する裁決について、 原処分をした執行機関の所属する行政主体である都道府県は、取消訴訟を提起する適格を有しない」というものであって、本件規定による審査請求に対する裁決の取消訴訟について一般論を示したものである。そうすると、本件規定による審査請求に対する栽決である本件裁決について、原処分である本件変更不承認処分をした執行機関である沖縄県知事の所属する行政主体である沖縄県が、本件裁決の取消求める本件訴えについても、その射程は及ぶというべきである。

 第4結論

 したがって、本件訴えは不適法であるから却下することとし、主文のとおり判決する。以上