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【深掘り】10年以上「なれあい」か 識者「議会制度を否定」 浦添市議の討論文面を市が提供 沖縄


【深掘り】10年以上「なれあい」か 識者「議会制度を否定」 浦添市議の討論文面を市が提供 沖縄 2022年3月定例会で読み上げられた「2022年度浦添市一般会計予算」に関する市作成の賛成討論。市長の所信の言葉も盛り込み、編成を評価する内容だった
この記事を書いた人 Avatar photo 藤村 謙吾

 採決への意思を議場内で表明し、議員自らの立場を市民に明示する討論について、執行部作成の文面を与党が読み上げることが浦添市議会で続いてきた。市作成の文面には、議案を高く評価する言い回しもあり、これが読み上げられたケースもあった。執行部をチェックする役割を課せられた議会の独立性や自主性に関わり、問題は根深い。

 市幹部は「いつどういう経緯で(賛成討論を)作ることになったかは分からない。少なくとも10年以上前、個人的な記憶では20年以上前から慣例としてあったと思う」と話す。一方で近年は、若い与党系議員を中心に慣例見直しの機運も広がりつつある。

 市幹部によると賛成討論は「一般会計予算であれば、議会の総務委員会」など議案を所管する委員会の委員長や、与党会派長に「参考として渡していた」という。特定の議案について作成する決まりや基準はなく、各課の部長職や課長職などがそれぞれ判断していた。
 別の市幹部は「予算を提出する立場として、議会でしっかり審議をし、可決してほしいという思いがあり、作成していた。『そのまま読んでください』ということではない」と強調する。

 与党市議によると、賛成討論文面は、主に各委員会の委員長から本会議で討論に立つことの多い副委員長に渡される。同市議は「そのまま読み上げた議員もいるだろうが、自分は文言を変えている。議案賛成にも根拠が必要で、執行部に議案の背景は聞くし、方向性が違えば指摘し変えさせることもある。賛成討論の文面は、参考資料に過ぎない」と話す。

 2021年の市議選で初当選した自民党会派の上原聖也市議は、22年3月定例会で市作成の賛成討論をほぼそのまま読み上げた。当時、福祉委員会の副委員長だった上原市議は「内容について担当課長に確認したが、慣例のようだったので読み上げた」と振り返る。
 一方、慣例に疑問を抱いた上原市議は、委員同士で話し合い、同委員会で、賛成討論で文面の読み上げをしないことを確認した。
 同市議は22年5月の賛成討論で、国民健康保険課作成の討論文面を受け取ったが、冒頭と最後の定型の表現を除き、自身の言葉で意見を述べている。23年4月の自民党会派若手議員による賛成討論でも、同様の傾向が見られた。

 市幹部は「執行部は議案が通ることが最優先だが、執行部と議会がなれ合い、議論がされないという指摘もあり、その点好ましくなかった。12月の議案提案までをめどに、市の方針を調整したい」と話した。

 又吉健太郎市議は「政治家は言葉が命。行政に与えられた文書でなく、(討論に際しては)自ら材料を集めて言葉をつくり出していくべきだ」と話した。
  (藤村謙吾)

【識者談話】
議会制度を否定 白藤博行氏(専修大名誉教授) 

 執行部作成の賛成討論を読み上げた事例があったことは、議会制度そのものを否定する話だ。自分たちが政治を行い、行政を通じて有権者に託された思いを実現するという使命を議員が分かっていない。己の存在理由を己で否定しており、嘆かわしい。

 議員と首長の両方を市民が直接選挙で選ぶ二元代表制が憲法と地方自治法で定められているのは、議事機関としての議会が議論をするためだ。首長が全て決定する民主主義と、異なる区域、異なる出自からなる多様な議員で構成される議会で議論する民主主義は、それぞれの意義が異なる。

 複数の議員が意見を交わすことで自治体の政策は豊かになるのだ。賛成するにしても、議員自身で文言を書かなければ、討論する意味がない。

 熟議民主主義あるいは討論民主主義とはほど遠い。執行部と協議、調整をした上で賛成討論を受け取ったというのは、居直りにも見える。協議や調整をするのであれば、その過程を有権者に見せるべきで、そのことも賛成討論の中で明らかにするべきだ。

 (行政法、地方自治法)