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【深掘り】「軟弱地盤」も効かず 与党幹部「県外・国外に訴え」 辺野古代執行訴訟、沖縄県敗訴


【深掘り】「軟弱地盤」も効かず 与党幹部「県外・国外に訴え」 辺野古代執行訴訟、沖縄県敗訴 辺野古新基地建設の代執行訴訟判決を前に県庁に登庁する玉城デニー知事=20日午前、那覇市泉崎(金良孝矢撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 名護市辺野古の新基地建設で、大浦湾側の軟弱地盤改良工事の設計変更申請を巡る代執行訴訟で、福岡高裁那覇支部は県の敗訴を言い渡した。新基地建設阻止を掲げ、闘ってきた県は軟弱地盤という大きな切り札を失ったことを意味する。

 県が承認しなければ国は代執行に進む構えだが、法定受託事務の代執行は史上初の事態。知事周辺は「代執行自体、異常なことだ」と異例づくめの国の行為を疑問視した。

 「県民の負託を受けた知事として、到底容認できるものではない」

 判決を受け玉城デニー知事のコメントを代読した池田竹州副知事は、代執行に進もうとする国を強く批判した。

 ■ポーズ

 判決文では、地方自治法が定める代執行手続きの3要件について、国の主張を全面的に認めた。中でも、公益性要件について裁判所は「法定受託事務に係る法令違反等を放置することによって害される公益」と限定的に解釈。辺野古埋め立て反対が多数を占めた2019年の県民投票で示された民意こそ「公益」だとした県側の主張を退けた。

 県民投票は代執行訴訟も見据えた取り組みだっただけに関係者には怒りが広がる。県関係者は「判決には『県民の心情は十分に理解できる』などと寄り添うような文言もあるが、ポーズだ」。県政与党幹部は「そこを指摘するなら県勝訴にすべきだ」と批判した。

 次の焦点は25日の期限までに県が承認するか否かだ。県関係者は「9月の最高裁判決の時には知事もだいぶ苦悩していたが、今の知事に迷いは見えない」と話し、承認することには否定的な見解を示した。知事は肺炎で急きょ、26日まで休むことになったが「業務に支障はない」とした。

 一方、新基地建設阻止に向けた新たな道筋は見通せない。

 県関係者は「フルスイングで臨んだ裁判だ。現状で持っているものは出し切った」と語った。知事支持層からは再撤回を求める声もあるが「軟弱地盤以上の問題点を探すのは難しい」と話し、苦悩をのぞかせた。

 ■波乱

  防衛省は勝訴を前提に大浦湾側での工事に向け業者と契約を結ぶなど準備を進めてきた。だが、判決期日が12月下旬にずれ込んだために、年内の大浦湾側本格着手は見送られる公算だ。工事が年内に着手できれば、高まった政府への批判的な感情も沈静化できるとのもくろみは外れ、世論への影響に懸念を示す。一方で「20数年続いてきた問題が、ようやくここまで来た。後は淡々と進めていくだけだ」と工事を進める姿勢を示した。

 自民党県議は「不承認という最後のカードも通用しなかった。県にもう手だてはない」と語り、攻勢を強める構えを見せる。「知事の後ろ盾としてきた民意は離れ行くだろう」と、政治状況の変化も見据えた。

 一方、判決文は付言で、今後10年以上にわたる工事で「さらなる設計概要変更等の必要が生ずる可能性もある」と指摘した。辺野古新基地建設の総事業費は9300億円が見込まれている。今、全国的な問題となっている大阪万博の会場整備費2350億円の4倍にも上る額だが「辺野古は工期、予算ともにさらに膨らむのは確実」(県政与党県議)とみられ、工事は波乱含みだ。

 与党幹部は「今の裁判所は司法ではなく『死法』だ。次々出てくる問題を、より広く県外・国外に訴える。社会を変える力は民意だけだ」と強調した。(知念征尚、佐野真慈、明真南斗)