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安保3文書の改定から1年 沖縄「要塞化」が加速 「台湾有事」駐福岡中国総領事に聞く <沖縄DEEP探る>


安保3文書の改定から1年 沖縄「要塞化」が加速 「台湾有事」駐福岡中国総領事に聞く <沖縄DEEP探る> 陸自石垣駐屯地開設式典で展示された12式地対艦ミサイル発射機=4月2日、陸自石垣駐屯地内
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 敵基地攻撃能力(反撃能力)保有を含む国家安全保障戦略など戦後の防衛政策を大きく転換させた安保関連3文書の改定から1年が経過した。政府は他国から軍事攻撃を受ける事態を想定し、南西諸島の防衛力強化を加速させる。それに伴い沖縄では新たな自衛隊駐屯地の開設や反撃能力を持つミサイル配備など、“要塞(ようさい)化”が止まらない。

 県内では与那国、宮古島に続き、今年3月に石垣島に自衛隊の駐屯地が開設。県からの説明要請に応えることなく、常駐する本島に加えて3島に地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を展開させた。24年度には陸上自衛隊沖縄訓練場への弾薬庫整備に着手し、26年度には那覇に拠点を置く陸上自衛隊の第15旅団を師団に格上げする方向だ。

 政府が22日に閣議決定した24年度当初予算案で防衛費は、過去最高の7兆9496億円(米軍再編関係経費などを含む)となった。そのうち、宮古島駐屯地と保良訓練場(宮古島市)の施設整備費に約13億円、石垣駐屯地には射場整備など104億円、与那国駐屯地では燃料施設整備などに約1億円を盛り込んだ。攻撃される可能性を減らすという「抑止力」を名目に、さらに新部隊や高性能装備の配置が予想される。

 軍事力強化の動きに住民の不安は広がる。石垣市の宮良麻奈美さん(31)は駐屯地開設以降、変化のスピードの速さに驚く。PAC3の展開、日米共同訓練実施、祭りでは迷彩服姿の自衛隊員がパレード、米軍と陸自のオスプレイの飛来―。街中では軍事車両や迷彩服姿の隊員を目にする。市平得大俣への陸自配備については有権者の3割を超える1万4263筆の署名を集め、賛否を問う住民投票の実施を求めた。だが止まらない軍備拡張を前に「取り組みがなかったことにされている」とこぼす。

 与那国町の山田和幸さん(71)も「悪い動きが速く進んでいる」と憂う。自衛隊関連の工事で建設労働者の宿舎が民家の前や学校の横などに次々と建つ。「まるで新幹線が突っ走ってくる感じで避けようがない」と戸惑う。台湾と近く「国境の島」とも呼ばれる与那国。22年には駐屯地の米軍使用が合意された。「台湾有事」との言葉も頻繁に飛び交うようになった。政府が言う「抑止力」となっているのかは日々の暮らしでは実感できない。「逆に島は日本から攻撃されている感じだ」と怒りをにじませる。

 安保3文書改定から1年を前にした15日、木原稔防衛相は記者会見で「防衛力の抜本的強化へ取り組みを一つ一つ着実に進めた」と自賛した。ミサイル・弾薬庫配備反対住民の会の下地博盛共同代表(74)は「自衛隊の活動を近くに感じるようになってきた」と語る。保良訓練場にはミサイルの発射台の出し入れなど、訓練が行われることが日常となった。防衛力強化のための配備であるはずなのに「攻撃能力を保有する」ことに違和感はぬぐえず、危機感が募る。「住民が紛争に巻き込まれるリスクは高まっている」。そう強く感じる。

 (新垣若菜、照屋大哲、友寄開)

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<用語>安保関連3文書

 「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の3文書を指す。昨年12月に閣議決定した。安保戦略は今後10年を見据えた外交・防衛の基本方針を定め、国家防衛戦略は防衛力の具体的方針を規定。防衛力整備計画は5年間の防衛費の総額や装備の数量を定める。日本を取り巻く状況が厳しさを増したとして、これまで「敵基地への攻撃手段を保持しない」としてきた政府方針を転換し、「反撃能力」の保有を打ち出した。


<律桂軍・駐福岡中国総領事に聞く>対話で建設的な関係を

駐福岡中国総領事の律桂軍総領事

 中国が台湾統一に向けて軍事力を行使する「台湾有事」を想定し、沖縄や九州の軍事強化が急激に進む。その中での日中関係をどのように見ているのか、中国駐福岡総領事館の律桂軍総領事に話を聞いた。

 ―日中関係や九州、沖縄との関係について。中国にとって沖縄はどのような存在か。

 「習近平国家主席と岸田文雄首相の1年ぶりの会談があった。重要な合意ができた。政治的文書の諸原則を厳守し、戦略互恵関係の持続的推進を再確認した。建設的で安定的な中日関係の構築に取り組むことで一致した」

 「沖縄、九州と中国は歴史的に密接な関係があると同時に、万国津梁としての役割を果たしていく。沖縄には引き続き、対中交流協力の生命線になっていただき、対中友好交流の第一列、先頭に立ってほしい」

  ―日本政府が台湾有事を見据えて、九州、沖縄の防衛力を強化している。

 「台湾は中国の領土であり、日中共同声明など、国連決議、中国と各国の外交文書によっても明記されている。中国が解決する国内問題だ。外国の勢力が台湾問題に関与することは、地域の緊張を高める原因となっている。断固として、外国勢力の介入に反対する」 「台湾海峡の緊張関係の背後にあるのは、台湾島内の独立、分離勢力の活動もある。加えて外国勢力の介入、関与が台湾を巡る緊張を高めている。中国側としては、最大限の努力をして最大限の誠意をもって、平和的な解決、平和的な国家の統一を追求していく」

 ―防衛白書は、中国の軍事力の急速な強化を「深刻な懸念」と表記した。日本の姿勢をどう感じるか。

 「日本の防衛白書は中国を『これまでにない最大の戦略的挑戦』としている。日中平和友好条約の精神に反している。問題があれば対話を通じて平和的に解決していく。武力行使や威嚇はしないと規定されている。沖縄、九州で軍備増強し米国と一緒に軍事費が大幅に増えていくのは、建設的なことではない。むしろ中国に対する脅威だ」

 「中国は防御的、防衛的な防衛政策をとっている。国の主権、安全、発展を守るものだ。特定の国をターゲットとしていない。私たちは、日中の政治的文書、平和友好条約を守っている。日本側も守っていただきたい。両国指導者の合意に基づき、新時代の要望にふさわしい、建設的、安定的な日中関係の構築に取り組んでいきたい」