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【深掘り】国、「代執行」以外は…手続き「棚上げ」 大浦湾埋め立て準備作業を開始 辺野古新基地


【深掘り】国、「代執行」以外は…手続き「棚上げ」 大浦湾埋め立て準備作業を開始 辺野古新基地 工事着工に向け準備作業が始まった大浦湾側海域=9日午後1時41分、名護市(大城直也撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 辺野古新基地建設に向け、沖縄防衛局は9日、大浦湾側で汚濁防止膜の設置などを実施した。ただ、国は軟弱地盤の改良に伴う設計変更申請を県に代わって承認する代執行は済ませたが、当初承認の留意事項に基づく県との事前協議は実質的に始まっておらず、県に約束したサンゴの移植も行われていない。代執行以外の手続きを棚上げして工事着手に突き進む国の姿勢に、県側からは疑念の声が上がる。

 大浦湾側の海域で準備に着手するとの報道を受け、玉城デニー知事は9日午前、記者団の取材に対し「本当に残念でならない」と語気を強めて国の姿勢を批判した。

 実施設計に関する事前協議は2013年、当初の埋め立て承認の留意事項の一つ。県は代執行が行われたことを受け、9日までに協議に応じる方針を固め、その旨を伝える文書の作成や防衛局に対する質問事項について検討を進めた。

 一方の木原稔防衛相は同日の会見で「(昨年)9月以降、県と実施設計に関する協議をしている」と述べ、協議は始まっているとの認識を示した。協議が調う前の工事着手にも含みをもたせた。

 協議が調わないまま工事を目指す国の姿勢に、県関係者は「協議はお互いの一致点を探るもの。始まる前に工事ができるなら何のための協議なのか」と疑問視した。

 公有水面埋立法は、一般私人の埋め立て事業で、実施設計について認可申請を要するとの免許条件が付されていた場合、それが不認可となれば、埋め立て免許は「その効力を失う」とされている。一方、国はこれまで、県の設計変更不承認に対抗し、私人を救済するための制度である行政不服審査法に基づき「私人」として不服を申し立てた経緯がある。

 先の県関係者は、国側が法廷闘争では私人としてふるまった一方、事前協議では私人ではなく、県との対話を軽視するかのような姿勢に「二重基準だ」と批判した。

 国はまた、大浦湾側に生息し、自ら移植を計画した小型サンゴ類約8万4千群体などについても、県から移植許可を得られておらず、移植を行わないまま工事を行おうとしている。

 代執行に先立つ昨年10月24日に行われた環境監視等委員会で防衛局は、サンゴ移植前に護岸工事をした場合の影響をシミュレーションした結果を説明。工事に着手しても「サンゴ類の生息環境は維持される」との結論を示し、護岸工事の先行実施に自ら「お墨付き」を与えた形だ。

 一方、2018年に移植された絶滅危惧種のオキナワハマサンゴは、移植された9群体のうち、現在も生き残っているのは2群体にとどまる。サンゴ移植の難しさもあらためて浮き彫りとなる中、辺野古新基地建設は大きな節目を迎える。

(知念征尚、與那原采恵)