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表面化する名護市「振興策」の動き 辺野古新基地 県を飛び越え地元接近を図る国


表面化する名護市「振興策」の動き 辺野古新基地 県を飛び越え地元接近を図る国
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古の新基地建設を巡り、沖縄防衛局が大浦湾側の工事に着手してから17日で1週間。県と国の立場の隔たりは埋まらないまま、この間も現場海域では連日のように石材投下が続く。一方、国が大浦湾側の工事に着手したことで、渡具知武豊名護市長は「工事は進んでいく」との見通しを示した。移設に賛否を示さない従来の立場は変えていないが、一歩踏み込んだ。

 市は、新基地周辺の久辺3区(辺野古、豊原、久志)の意見集約を進め、政府に振興策や基地被害軽減策を要望する方向で調整を進めている。

地元の焦燥感

 「住みよい街づくりのために、市にも協力していただきたい」。代執行訴訟の判決から5日後の昨年12月25日、久辺3区の代表者は、渡具知市長にこう求めた。基地建設に起因する生活環境悪化に懸念を示す区民もいる。基地建設が進む中で地元への新たな振興策は提示されていない。

 久辺3区は、基地負担に伴う環境整備、補償や振興策を沖縄防衛局との「振興策協議会」や、政府との懇談会で要請してきた経緯がある。一部事業で補助を受けてきたものの、昨年5月に4年ぶりに開かれた政府との懇談会で、振興策は提示されてない。石材が投下された10日、ある区長は「地域住民への迷惑にならないように進めてもらいたい」と話し、地元に負担なく工事を進めるよう、くぎを刺した。

協議体の設立も

 工事を進める政府側でも県を飛び越え、名護市や久辺3区と「意思疎通」を図る動きが徐々に表面化している。複数の政府関係者によると大浦湾側工事着手を受け、国や久辺3区に名護市を加えた形で振興策を話し合う協議体を設ける見通しだ。

 自民党関係者は「これまで名護市は移設への賛否を明言しない立場だった。これからも容認とは言わないにしても、大浦湾側に着工したことで状況が変わった。今まで以上に市内の振興について突っ込んだ話ができる」と語った。

 防衛省幹部は「これまでも名護市長を含めて地元とは緊密にやりとりしてきた。今後も要望を聞き取りながらできることをしていく」と語った。

「事実上の容認」

 政府との条件交渉の席を画策する渡具知市長の動きに「事実上の容認」(県政与党議員)との指摘も上がる。市幹部は「そういったことではない」と否定し「工事が進む中で、市として、できることをやっていく、ということだ」と強調した。

 ただ県政与党議員の一人は「既に名護市には再編交付金が支出されており、実質は以前から認めているようなものだ」と指摘する。このような姿勢は「沖縄はお金で何とでもなるという官僚の思考を補完しかねない」と懸念を示した。新基地建設は北部全体の地域づくりにも関わる話だとしつつ、賛否を示さないことで「地域全体の将来像を議論することも封じることになっていないか」と疑問視した。

 県関係者は新基地が完成した場合の運用について「影響は久辺3区にとどまらず、北部の広範囲に及ぶことになる。オスプレイは今でも伊江島や沖縄本島南側の飛行が確認されており、影響は広範囲に及ぶ」として、振興の議論が先行し、基地被害が広範に及ぶ可能性に目が向けられていない現状に懸念を示した。

 (金城大樹、明真南斗、知念征尚)