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【概要】玉城デニー知事の県政運営方針 2024年度


【概要】玉城デニー知事の県政運営方針 2024年度 2月定例県議会で所信表明する玉城デニー知事=14日、那覇市
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 【県政運営に取り組む決意】

 私は、これまで、祖先(ウヤファーフジ)への敬い、自然への畏敬の念、他者の痛みに寄り添うチムグクルを大切にするとともに、「自立」「共生」「多様性」の理念の下、包摂性と寛容性に基づき、様々な施策を推進してきた。

 今後も、「時代を切り拓き、世界と交流しともに支え合う平和で豊かな『美ら島』おきなわ」の創造を基本理念とする「沖縄21世紀ビジョン」の実現を図り、本県の自立的発展と県民一人ひとりが豊かさを実感できる社会の実現に向けて、全身全霊で取り組んでいく。

 また、長期に及んだ新型コロナウイルス感染症の影響から持ち直しの動きが見られるものの、物価高騰による影響が懸念されている県民生活や経済活動、子どもの貧困問題などの昨今の社会課題を踏まえながら、公約に掲げている「県経済と県民生活の再生」「子ども・若者・女性支援施策のさらなる充実」「辺野古新基地建設反対・米軍基地問題」の三つの大項目について重点的に取り組んでいく。

 戦後78年、復帰から51年となる現在もなお、国土面積の約0・6%に過ぎない本県には、在日米軍専用施設面積の約70・3%が集中し続けている。

 これらの広大な米軍基地の存在が本県の振興を進める上で大きな障害となり、また、日常的に発生する航空機騒音をはじめ、自然環境の破壊、航空機事故のほか、米軍人・軍属等による事件・事故等が県民生活に様々な影響を及ぼしている。県としては、引き続き、県民の生命、生活及び財産を守る立場から、県民の目に見える形で基地負担の軽減がなされるよう、取り組んでいく。

 特に、普天間飛行場については、市街地の中心部に位置しており、住民生活に著しい影響を与えていることから、周辺住民の航空機事故への不安や騒音被害などを解消することが喫緊の課題となっており、同飛行場の一日も早い危険性の除去と早期閉鎖・返還は県民の強い願いだ。

 一方、政府が唯一の解決策とする辺野古移設については、軟弱地盤の存在が判明し、提供手続の完了までに約12年を要するとされ、さらに、軟弱地盤が海面下90メートルの深さまで存在することが確認され、国内で前例のない大規模な地盤改良工事が必要であるため、更なる工期の延伸も懸念される。

 県としては、辺野古移設では普天間飛行場の一日も早い危険性の除去にはつながらないと考えており、政府に対し、対話によって解決策を求める民主主義の姿勢を粘り強く求めていくとともに、2013年に県議会議長及び全41市町村の首長・議会議長等が「米軍普天間基地を閉鎖・撤去し、県内移設を断念すること」を求めた建白書の精神、これまでの県知事選挙や県民投票で県民が一貫して示してきた辺野古新基地建設反対の思いを実現するため、ブレることなく県民の先頭に立っていく。

 22年12月、安全保障関連3文書といわれる「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」及び「防衛力整備計画」が閣議決定され、本県では昨年、これに関連して、陸上自衛隊石垣駐屯地の開設等の自衛隊配備や、相次ぐ大規模な日米共同演習、自衛隊等が民間空港等を利用するための「特定利用空港・港湾」の指定に向けた動きなどがあった。

 県としては、アジア・太平洋地域の安全保障環境が厳しさを増していると承知している。しかしながら、抑止力の強化がかえって地域の緊張を高め、不測の事態が生ずることを懸念しており、ましてや米軍基地が集中していることに加え、自衛隊の急激な配備拡張により、沖縄が攻撃目標になることは、決してあってはならないものと考えている。

 このため、本県における自衛隊の配備は、在沖米軍基地の整理縮小とあわせて検討することなどを政府に求めたところであり、引き続き、軍転協等とも連携しながら、適切に対応していく。

 特に「特定利用空港・港湾」に関しては、整備に係る予算計上方法や整備後の運用などについて県民に強い不安の声があることから、政府に対し、しっかりとした説明を求めてまいりたい。

 地域外交については、沖縄独自の歴史的・文化的特性等のソフトパワーと国際ネットワークを最大限に活用し、アジア・太平洋地域の平和構築と相互発展に向けて積極的な役割を果たしていきたいと考えており、沖縄県独自の地域外交を展開する。

 【重要政策】

 24年度は、「新・沖縄21世紀ビジョン基本計画」の策定から3年目を迎えるとともに、同計画に掲げた各施策の具体的な取組を示す「新・沖縄21世紀ビジョン実施計画(前期)」の最終年度となる。

 県としては、誇りある豊かな沖縄の未来に向け、これら計画に掲げた取組を加速させ、計画を着実に推進していくとともに、昨今の社会課題など重要性を増した課題等を踏まえ、公約において重要政策として掲げた各種取組を展開していく。

 県民のいのちと暮らしを守る

 新型コロナウイルス感染症に関わるこれまでの経験を踏まえ、引き続き、新興感染症等対策の強化を図り、医療機関をはじめ、関係機関と連携し医療提供体制の確保に取り組むとともに、感染症研究センターの機能強化を進め、感染対策と社会経済活動の両立に努めていく。

 また、コロナ禍からの経済回復が進む一方で、人手不足や物価高騰などの新たな課題も発生していることから、資金繰り支援や再チャレンジ支援などの経営基盤の強化に向けた対策や、産業DXの推進など産業全体の生産性を高める取組などを行うことで、経済の再生を着実に進めていく。

 辺野古新基地建設反対をつらぬく

 辺野古新基地建設に反対する県民の民意は、過去3回の知事選挙をはじめ、19年2月に行われた辺野古埋立てに絞った県民投票において圧倒的多数で明確に示されるなど、揺るぎない形で反対の民意が繰り返し示されたことは、極めて重いものだ。

 一方、国は、このような多くの沖縄県民の民意を顧みず、辺野古が唯一の解決策として沖縄県との対話にも応じない中、昨年12月28日に法令に基づく沖縄県の処分権限を奪い、その自主性・自立性を侵害して、美しい海を埋め立てて新たな基地を建設する代執行を行うなど、沖縄の過重な基地負担の格差を永久化、固定化しようとしている。

 私は、県民の民意に応え、普天間飛行場の一日も早い危険性の除去及び早期運用停止、閉鎖・撤去と辺野古に新しい基地を造らせないという公約の実現に向けて、引き続き、全身全霊で取り組んでいく。

 子どもは沖縄の未来

 こども施策に関する総合調整機能を持つこども未来部を新たに設置し、子ども・若者育成支援などのこども施策を総合的に取りまとめた「沖縄県こども計画(仮称)」を策定するとともに、全庁体制でこども施策を強力に推進していく。

 「子どもの権利尊重条例」が目指す子どもの権利ファーストの理念の下、ヤングケアラーの支援や児童相談所等の体制強化に取り組むほか、中高生のバス通学費等の支援、就学援助制度と給付型奨学金の充実、中部地区への特別支援学校の設置に向けた実施設計、学校給食費の無償化に向けた取組など、こども施策の充実に努めていく。

 安全・安心の沖縄

 PFOS等による水道水源等汚染については、県民の健康に関わる極めて重要な問題であることから、汚染源である蓋然性が高い米軍基地について、情報の提供、基地内への県の立入調査、国又は米軍による原因究明調査と対策の実施を日米両政府に対し求めていく。

 基地への立入調査が認められないことについては、基地の管理権を規定する日米地位協定がもたらす構造的な問題があると考えており、引き続き、環境保全に関する日本国内法の適用や環境条項の新設など、日米地位協定の見直しを求めていく。

 さらに、生活環境の保全を図るため、米軍基地周辺の調査に加え、土壌と水質の全県的な調査を引き続き実施するとともに、可能な限り国管理ダムを活用するなど、水道水のPFOS等低減化に取り組むほか、国による浄化の実施、県及び市町村の対策に係る費用負担を求めていく。

 危機管理の拠点となる「沖縄県防災危機管理センター(仮称)」の整備や消防防災ヘリの導入に向けた合意形成に取り組むほか、港湾施設の耐震化など小規模離島の防災体制の強化にも取り組んでいく。また、引き続き、高病原性鳥インフルエンザ等の特定家畜伝染病の侵入防止に向け危機管理体制の強化に努める。

 離島振興

 離島振興なくして沖縄の振興なしという考えの下、引き続き県政の最重要課題と位置付け、交通・生活コストの負担軽減、防災体制の強化、医療提供体制の充実・確保等の定住条件の整備のほか、移住の促進、関係人口の創出等に取り組んでいく。

 自然環境と文化・伝統が調和する沖縄

 「2050年二酸化炭素排出実質ゼロ」表明自治体として、脱炭素化の実現に向け、太陽光発電事業への支援、風力発電及び海洋温度差発電の可能性調査、税制上の特例措置の活用促進など、クリーンエネルギーの導入を促進するほか、EVバス等、電動車の補助拡充等に取り組む。

 また、生物多様性に富んだ豊かな自然環境を次世代へ継承するため、自然環境の保護・保全に取り組むとともに、国立沖縄自然史博物館の設立・誘致の早期実現に向けて県全体が一丸となる取組の更なる推進、世界自然遺産地域の保全と利用の両立を図るための適正管理を推進するほか、人と動物が共生する社会の実現のための条例の制定に向けて取り組んでいく。

 首里城の復興については、国内外からの寄附金を活用し、各種製作物復元、伝統的な建築等に係る人材育成、首里杜地区の歴史まちづくりの推進に取り組むほか、安全性の高い公園管理体制の構築、公園の更なる魅力向上や復興イベント等、各種復元プロジェクトに引き続き取り組んでいく。

 限りない沖縄の可能性を未来へ

 「稼ぐ力」の強化のため、産業DXの推進や企業連携、スタートアップの育成等によるイノベーションを促進するとともに、高度な人材の育成や労働者のリスキリングを積極的に推し進めることで、産業全体の生産性を高めるとともに、産業横断的な「おきなわブランド戦略」の推進等による県外・海外の市場開拓や域内の経済循環を高める施策を総合的に展開していく。

 また、回復基調にある沖縄観光の更なる振興及び持続可能な観光地の形成に向けて、国内観光需要に対するターゲットに応じたきめ細かな誘客活動や近隣のアジア市場・欧米等の海外からの段階的な誘客に取り組むとともに、人材確保や2次交通の利用促進のほか、オーバーツーリズムの発生抑制など受入体制の強化を図り、「安全・安心で快適な島沖縄」の実現に向けて取り組む。

 大型MICE施設整備については、PFI法に基づき事業者の募集及び選定に向けた手続を進めるとともに、地元町村と連携しながらマリンタウンMICEエリアの形成に取り組んでいく。

 34年度に本県で開催予定の国民スポーツ大会について、準備委員会の設立等に取り組んでいく。

 また、島しょ県である本県にとって重要な役割を担っている那覇港や中城湾港、各圏域の拠点港湾等の機能強化に取り組むとともに、防災面での機能も併せた無電柱化を推進し、特に離島地域についてその一層の推進を図るほか、新設する「沿道景観推進室(仮称)」において、良好な沿道景観創出に向けた街路樹等の適正管理を強化していく。

 さらに、食料自給率の向上につなげていくため、台風等の災害に対応しうる足腰の強い農林水産業を推進し、産地育成や新技術の普及などによる生産供給体制の強化、食育の推進や観光産業との連携による農林水産物の地産地消の推進、おきなわそば地産地消プロジェクトなどによる小麦等の県産食材の魅力向上、植物工場などのスマート農林水産技術等の研究開発の推進、北大東村における分蜜糖製糖工場の整備に向けた支援、生産基盤の整備などに取り組む。

 また、女性に関する施策をより一層推進するため、こども未来部に新たに「女性力・ダイバーシティ推進課(仮称)」を設置し、「第6次沖縄県男女共同参画計画」に基づき、ジェンダー平等の実現に向け、あらゆる分野の政策・方針決定過程への女性の更なる参画促進などに取り組むとともに、困難な問題を抱える女性への支援を効果的に実施するための基本計画の策定に取り組む。

 以上の施策を着実に進めるためにも、公務の遂行については、リスク管理の徹底と内部統制に係る総点検の結果を踏まえた再発防止の取組を早急に進めるとともに、外部専門家による検証を行うこととしている。

 あわせて、24年度から、全ての主管課に内部統制専任職員を増員配置するなど内部統制推進体制の強化を図りながら、多様な行政需要に対応する組織を編成し、適正な行政運営に取り組んでいく。

 【24年度の施策の概要】

 ■経済分野

 企業の「稼ぐ力」の強化と産業振興

 県民所得の着実な向上を図るためには、県内企業の生産性や競争力を高め、稼ぐ力の強化を図り、企業収益を従業員の賃上げなどにつなげることで、成長と分配の好循環を実現することが重要だ。

 DXの推進については、“リゾテックおきなわ”により全産業のDXを加速させるとともに、産業横断的なデータ利活用に向けた環境整備に取り組む。

 テストベッド・アイランドの形成に向けては、国や市町村等と連携し、先端的な技術やサービスを社会実装するための実証実験に対し、ワンストップで支援する体制を構築するとともに、企業間の連携又は企業と自治体との協働によるオープンイノベーションの取組を支援することにより、新たなビジネス創出や地域課題の解決につなげていく。

 また、絶え間なくイノベーションが創出されるイノベーション・エコシステムの構築に向け、OISTをはじめとする県内大学等が実施する産学連携の共同研究や大学発ベンチャーの創出等を支援するほか、航空・宇宙関連産業については、下地島空港等の離島空港を活用した産業の展開を推進していく。

 世界から選ばれる持続可能な観光地の形成

 地域社会、経済、環境の三つの側面において適切なバランスを長期的に維持し、旅行者・観光客と地域・住民が価値を共有するサステナブル(持続可能)/レスポンシブル(責任ある)ツーリズムの推進を図っていく。

 アドベンチャーツーリズムなど、高付加価値な観光資源開発を支援し、富裕層インバウンドを取り込むとともに、ビッグデータや観光DX、ICTの活用による多彩かつ質の高い観光の推進、災害時における観光客の滞在先の確保等に取り組み、世界から選ばれる持続可能な観光地の形成を目指していく。

 受入体制強化の取組として、国内外の観光客が安心し満足する質の高いサービスを提供できる観光人材の育成・確保に取り組むとともに、観光地を周遊するシャトルバスへの支援、観光2次交通結節点の設置、手ぶら観光などを推進する。

 「FIBAバスケットボールワールドカップ2023」の開催で得たノウハウやレガシーを活用した「デフバレー世界選手権2024」の開催支援に取り組むとともに、スポーツコンベンションの核となるJリーグ規格スタジアムについて、当初規模を1万人とする段階的な整備に向けて取り組んでいく。

 農林水産業の振興について申し上げる。

 本県の気候や地理的特性を最大限に生かした持続可能な農林水産業振興に取り組み、離島・過疎地域における基幹産業としての地位も踏まえつつ、おきなわブランドの確立、競争力の高い品目やスマート農林水産技術等の導入、観光産業等との連携による地産地消の推進、各種ツーリズム等の体験交流プログラムの提供など、農林漁業者の所得の向上や域内経済循環の促進、魅力ある農山漁村地域づくりを推進していく。

 また、特定家畜伝染病危機管理体制の強化や特殊病害虫の根絶と侵入防止の徹底、輸送コスト低減対策、マーケットインを意識した出口戦略の強化、中央卸売市場の再整備の方針策定に取り組む。

 畜産業については、生産基盤の拡大、産業獣医師の確保、飼料自給率の向上等による生産資材価格高騰への対応など、各種施策を推進する。

 林業については、自然環境に配慮した森林施業のほか、ICT技術を活用した森林の精密な地形情報や森林資源情報の把握等に取り組む。

 水産業については、持続可能な資源管理型漁業や沖縄型のつくり育てる漁業の振興を図る。

 働きやすい環境づくりと多様な人材の活躍促進

 人手不足への対応については、高齢者、障がい者、女性、若年者など幅広い求職者に対する総合的な就業支援に取り組むとともに、正規雇用やUJIターンの促進、外国人材の受入環境整備等を推進するほか、ハローワーク等と連携し、交通や観光をはじめとする幅広い分野の求人情報の提供や、合同企業説明会の開催、民間人材紹介事業者と連携した兼業・副業人材とのマッチングなど、人手不足分野への人材確保支援に取り組む。また、男性の育児休業取得やワーク・ライフ・バランスの促進など、多様な人材が活躍できる環境づくりに取り組む。

 人材の育成については、企業や業界団体等が行う実践的な社員研修やリスキリングの取組を支援するとともに、従業員のデジタルリテラシーの向上や、DX推進リーダー、データ活用人材等の専門人材の育成に取り組む。

 また、産学官相互が恒常的に対話し地域課題の解決を図る「地域連携プラットフォーム(仮称)」の構築に向け引き続き大学等と連携していく。

 自立的発展の実現に向けた基盤整備

 「沖縄県DX推進計画」のもと、職員のリテラシー向上を図るとともに、外部の知見も活用しながら、生活、産業、行政など、様々な分野のDXを推進する。

 過度な自家用車利用から公共交通利用への転換を図るため、沖縄都市モノレールの3両車両を2編成分追加納入し、一日も早い運行開始に取り組むとともに、県民が路線バスを乗車体験する機会を創出する。

 那覇港については、新港ふ頭地区の整備促進や浦添ふ頭地区の早期整備に向けた検討など、将来にわたる沖縄全域の持続可能な発展の推進力となる「みなとづくり」に取り組む。

 ■平和分野

 米軍基地から派生する諸問題の解決と駐留軍用地の跡地利用

 沖縄の過重な基地負担を軽減するためには、SACO最終報告や統合計画の確実な実施に加え、更なる米軍基地の整理・縮小が必要だ。このため県は、「当面は在日米軍専用施設面積の50%以下を目指す」とする具体的な数値目標の設定と実現を日米両政府に強く求めている。

 普天間飛行場については、引き続き、普天間飛行場負担軽減推進会議等において、県民の目に見える形で負担軽減に取り組むよう求めていく。また、普天間飛行場の固定化は絶対に許されないことから、県内移設の断念やオスプレイの配備計画の撤回を求める建白書の精神に基づき、同飛行場の一日も早い危険性の除去及び早期運用停止、閉鎖・撤去を日米両政府に求めていく。

 辺野古新基地建設問題については、引き続き、トークキャラバン等を通じ、辺野古新基地建設に反対する県民世論及びそれを踏まえた私の考えを広く国内外に伝え、問題解決に向けた国民的議論を喚起し、理解と協力を促進していく。

 私は、昨年9月に国連人権理事会に出席し、沖縄に米軍基地が集中している状況や県民の平和を希求する思いなどをスピーチしたほか、「米軍基地による人権・自治・環境問題」をテーマにした講演会を開催し、沖縄の過重な基地負担や辺野古新基地建設問題などについて訴えた。また、国連関係者との面談では、私から、米軍基地から派生する様々な問題が人権、環境、自治、私たちの暮らしや文化などを侵害していることを説明し、面談したほとんどの方々から、私の考えに賛同していただいた。

 今後は、国連関係者の沖縄への招へいに取り組むとともに、引き続き、国際社会に対して、沖縄の基地負担の軽減や辺野古新基地建設問題、基地から派生する諸問題の解決の必要性を訴えていく。

 また、沖縄県が辺野古新基地建設に関し行った処分について、国は、本来国民の権利利益の救済を図ることを目的とする審査請求を利用し、裁決により処分を取り消すことができるとする一方で、最高裁判決では、その裁決の適法性について現行の法制度では司法の判断を仰ぐことができないことが示された。地方公共団体が自ら責任を持って行った処分を国が裁決で取り消す「裁定的関与」は、地方公共団体の自主性や自立性ひいては憲法に定める地方自治の本旨からも重大な問題であることから、全国知事会と連携し、地方自治法等の改正による「裁定的関与」の見直しを国に対して強く求めていく。

 沖縄の基地問題の解決を図るためには、日本政府のみならず、一方の当事者である米国政府に対しても沖縄県自らが直接訴えることが重要であると考えている。これまでの訪米活動やワシントン駐在の活動等においては、連邦議会関係者等に対し、普天間飛行場の現状と辺野古新基地建設の技術的課題をはじめ、米軍基地周辺のPFOS等の問題、米軍人軍属による事件・事故などを説明してきたところであり、今後も、国防権限法案等に沖縄の基地問題に関する記述が反映されるよう継続して働きかけていく。

 日米地位協定の抜本的見直しの実現に向けて、様々な機会を捉えて全国に情報を発信するとともに、引き続き、全国知事会や渉外知事会等とも連携して取り組んでいく。

 県土構造の再編につながる戦略的な跡地利用の推進に向けて、関係市町村等と連携を図り、普天間飛行場をはじめとした返還予定地の跡地利用計画の策定を促進する。

 尖閣諸島を巡る問題については、中国公船の接続水域における年間航行日数が昨年、過去最多を記録するなど、我が国の領土・主権を侵害しかねない行為が頻繁に生じている。沖縄県としては、引き続き、戦略的互恵関係の構築の下、関係機関と連携を図り、日本政府に対し、冷静かつ平和的な外交・対話を通じて日中関係の改善を図ること等を求めていく。

 地域外交の推進

 平和を希求する「沖縄のこころ」を広く国内外に発信し、海外の自治体との連携や国際機関等の誘致など、沖縄独自のソフトパワーを活用した国際的な地域間協力を推進し、アジア・太平洋地域の平和構築に資する国際平和創造拠点の形成を目指す。

 加えて、沖縄県の地域外交は、県民、NGO・NPO、企業、関係団体、自治体などの様々な主体及び国が協働・連携することでより相乗効果を発揮することが期待される。各主体がそれぞれの役割を十分に果たせるよう人材育成や連携促進に取り組んでいく。

 平和を希求する「沖縄のこころ」の発信と継承

 第32軍司令部壕の保存・公開に向けて基本計画を策定するとともに、沖縄県平和祈念資料館のリニューアルに向けて、有識者による監修委員会を設置し基本構想及び基本計画を策定するなど、アジア・太平洋地域の平和発信拠点について、その在り方等の検討を進めていく。

 ウチナーネットワークの継承・発展、多文化共生社会の構築

 ウチナーネットワークの継承・発展・強化に向け、国内外のウチナーンチュとの絶え間ない交流や、交流の架け橋となる人材育成、アジアのみならず、南米や北米、欧州、オセアニアなどの国や地域との交流促進に取り組むほか、世界に約42万人いると言われる世界のウチナーンチュの心の拠り所“むーとぅやー”となる「世界ウチナーンチュセンター(仮称)」を整備する。また、多文化共生社会の構築に向け、在住外国人等が住みやすい地域づくりや県民の異文化・国際理解促進、様々な分野の交流推進に取り組む。

 心豊かで、安全・安心に暮らせる島づくり

 多様な性のあり方に関する理解促進に向けた啓発活動などに引き続き取り組むとともに、不当な差別のない社会の形成に関する施策を推進していく。

 女性が社会のあらゆる分野で活躍できるジェンダー平等を実現するため、女性のスキルアップやネットワーク構築等に取り組むとともに、固定的性別役割分担意識の解消に向けた意識啓発等を推進していく。

 配偶者からの暴力相談機能等の充実について、関係機関との連携強化、広報啓発等に取り組むとともに、在沖米軍関係者等を相手方とする離婚や養育費等で悩みを抱える県内女性等に対し、国際家事福祉相談所を活用し、相談支援体制の強化を図っていく。

 深刻化するサイバー空間の脅威や薬物事案、組織犯罪等多様化する犯罪に的確に対処するため、警察施設を含む基盤整備を推進するほか、交通事故のない沖縄県を目指して、交通ルールの遵守及びマナー向上並びに飲酒運転根絶の取組を推進する。

 大規模災害等に備えた強くしなやかな県土づくりに向けては、道路、港湾、河川、砂防関係施設、海岸保全施設等社会基盤の計画的な整備や補修・更新・耐震補強等のハード対策と併せて、河川流域全体で関係者が協働し水害を軽減させる流域治水など防災・減災対策に取り組むほか、民間施設などの耐震化に向けた取組を推進する。

 ■生活分野

 子育て支援・福祉サービスの充実

 「沖縄子どもの未来県民会議」と連携して、児童養護施設退所者等の大学等進学のための給付型奨学金など、子どもの学びと育ちを社会全体で支える県民運動を推進するとともに、公的施設を活用した放課後児童クラブの設置促進など子どもの安全・安心な居場所等の設置・拡充や、子ども食堂等への食支援体制の強化、無料塾などの多様な学習支援に取り組む。ひとり親家庭等の生活の支援、就労や学び直しの支援等、生活の安定と自立に向けた取組を推進する。

 こども施策と母子保健施策を一体的に推進することにより、こどもの発達に応じた地域の子ども・子育て支援に早期につなげるとともに、病児保育や一時預かり保育、医療的ケア児の受け入れ等の多様な子育てサービスの提供体制の整備に取り組む。また、こども医療費助成、「母子健康包括支援センター」の設置促進及び機能充実など、子育て支援を推進していく。

 若年妊産婦等については、相談支援や通所型居場所の支援に取り組む他、23年10月に開設した宿泊型居場所と連携のうえ、支援体制の強化を図っていく。

 社会生活を営む上での困難を有する子ども・若者及びその家族等に対しては、関係機関と連携し、多角的な支援に取り組む。

 こどもの権利擁護を念頭に、児童虐待に対する取組を強化するとともに、里親支援センターの設置や、里親制度の更なる普及・啓発活動の推進による里親等への支援の充実、家庭的養護の推進、児童養護施設等の退所者の自立支援に取り組む。

 高齢者が生き生きと暮らせる地域づくりに向けて、地域包括ケアシステムの推進、認知症施策、特別養護老人ホーム等の整備や介護人材確保等の支援など介護サービス等の充実に取り組んでいく。

 医療の充実・健康福祉社会の実現

 薬剤師確保については、23年12月に薬学部設置等の対応方策について協議を行う場の設置に合意した琉球大学との協議を進め、県内における薬学部設置の早期実現に向け、取り組む。

 北部地域については、公立沖縄北部医療センターの早期整備に向けて、実施設計及び運営主体となる財団法人の設立準備に取り組み、離島地域については、離島診療所への医師派遣や専門医による巡回診療などによる医療提供体制の確保、離島患者の経済的負担の軽減などに取り組んでいく。

 県立中部病院については、将来の建替等も含めた基本構想を策定し、機能強化等に向けて取り組んでいく。

 健康づくりに対する県民一人ひとりの意識の醸成、生活習慣を改善するための環境整備、地域や職場等の日常生活における健康づくりを官民一体となって取り組むとともに、昨年6月に設置した沖縄県口腔保健支援センターの取組等、歯科口腔保健対策の強化を図る。

 生活基盤及び生活環境の充実・強化について申し上げる。

 24年10月からの水道料金改定を踏まえて、より一層の経営合理化に取り組むとともに、水道水の安定供給を図るため、老朽化した水道施設の着実な更新や耐震化、本島周辺離島8村の水道広域化、ダムの貯水率に応じた海水淡水化施設の活用などに取り組んでいく。

 また、安心・安全で持続可能な下水道事業実施に向けて、下水道資源の有効利用、民間活力の導入検討、計画的な施設の増強・更新・耐震化や、都市の浸水対策に取り組む。

 住環境の整備では、県営住宅の計画的な建替え等の推進、高齢者・子育て世帯等の住宅確保要配慮者の居住の安定確保、住宅の省エネ化等に取り組んでいく。

 災害時の避難場所、緑と触れあう憩いの場、レクリエーション活動の場としての都市公園整備を推進する。

 離島・過疎地域の持続可能な地域づくり

 離島・過疎地域の活性化を図るため、児童の離島体験交流をはじめ、離島住民との交流を含むボランティアツアーの造成、ワーケーションの推進等による交流人口及び関係人口の創出・拡大に取り組むとともに、人口の維持・増加を図るため、移住情報を広く発信し、移住希望者の相談に随時対応するほか、移住相談会や体験ツアーの実施など、移住・定住の促進に取り組む。

 情報通信については、公共施設へのWi―Fi整備により利便性の向上を図るとともに、南大東島と北大東島を結ぶ海底光ケーブルの整備については、25年度供用開始に向け取り組んでいく。

 離島航空路の確保と維持に向けて、計画的な空港施設の更新整備と機能向上に取り組むほか、離島港湾について、海上交通の安全性・安定性の確保など、港湾機能の強化・拡充を図る。また、県道石垣空港線を整備するなど、空港、港湾等の交通拠点を相互に連結させる取組を推進するとともに、路線バスの確保・維持に取り組む。

 世界に誇る自然環境・生物多様性の保全・継承

 本県の自然環境の保全・継承を図るため、希少野生動植物や沖縄固有種の保護対策、外来種対策や、国立自然史博物館のあり方に関する基本方針等の策定に向けた調査・検討や更なる機運醸成の推進、赤土等の流出の更なる防止に向けた総合的な赤土等流出防止対策の推進に取り組むとともに、地域猫活動につながる支援など動物愛護の取組を引き続き推進する。また、北部地域の水源かん養機能の維持や環境保全、地域振興などやんばるの森・いのちの水を守る取組を推進する。

 脱炭素社会の実現に向けて、事業用車両の電動化にかかる補助対象の拡大等により、取組を強化するとともに、循環型社会の構築に向けて廃棄物の3Rや適正かつ効率的な処理体制の構築、使い捨てプラスチック製品の使用削減等に取り組む。

 沖縄文化の保存・継承・創造と更なる発展

 琉球歴史文化の日を中心に、沖縄の歴史と文化への理解を深め、国内外へ発信するとともに、多様で豊かな沖縄文化を守り、育むための取組を推進する。

 沖縄空手の保存・継承・発展のため、指導者・後継者の育成や沖縄空手会館を拠点とした「空手発祥の地・沖縄」の発信、第2回沖縄空手少年少女世界大会の開催に取り組むとともに、空手ツーリズム等を推進していく。

 学校教育については、幼児児童生徒が豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となるよう、学校の特色化・魅力化に取り組んでいく。また、幼児児童生徒が、障害の有無にかかわらず可能な限り共に学ぶことを追求するとともに、障害のある生徒等の自立と社会参加を見据えた特別支援教育の充実を図っていく。

 教職員が心身共に健康で本来の職務に専念し、働きやすさと働きがいを実感できる環境整備に向け、学校の働き方改革及びメンタルヘルス対策を着実に推進するとともに、教職員の確保に取り組んでいく。

 確かな学力を身に付ける学校教育の充実に向け、主体的・対話的で深い学びを通した学力向上の推進と教職員の指導力向上に取り組んでいく。

 不登校児童生徒への支援を行う校内自立支援室の設置、魅力ある学校づくりの推進によるいじめや不登校の未然防止、組織的な早期対応等、児童生徒支援体制の構築に取り組んでいく。

 子どもたちが未来に夢と志を持てるよう、教育活動全体を通して、個々の能力を伸ばす教育やキャリア教育の充実を図り、社会的・職業的自立に向けた取組を推進していく。