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プーチン大統領の死生観 命よりも国家を重視<佐藤優のウチナー評論>


プーチン大統領の死生観 命よりも国家を重視<佐藤優のウチナー評論> 佐藤優氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 2月6日、モスクワのクレムリンで元FOXニュースの司会者タッカー・カールソン氏がロシアのプーチン大統領に対する約2時間の単独インタビューを行った。このインタビューの動画と記録を2月8日、ロシア大統領府が公表した。2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻した後、プーチン大統領が米国人記者の単独インタビューを受けるのは初めてである。

 日本のマスメディアでは報道されなかったが、インタビューで筆者が注目したのはプーチン大統領の死生観だ。ニュアンスが大切なので、少し長くなるが正確に引用する。

 <珍しい例を挙げましょう。戦場で衝突があり、具体的な例があります。ウクライナの兵士が包囲され、これは人生における具体的な例でです。私たちの兵士が叫びました。「チャンスはない、降伏しろ! 出てこい、生きているうちに降伏するんだ!」。そして突然、そこからロシア語(ロシア語の上手な人たちでした)で「ロシア人は降伏するな!」と叫びました。そしてみんな死にました。彼らはまだ自分たちがロシア人だと感じています。

 そういう意味で、今起きていることは、ある程度内戦的な要素を持っています。そして西側諸国の誰もが、この戦闘によってロシア国民の一部が他の部分から永久に切り離されたと考えています。しかし、統一は起こるでしょう。それができないことは決してありません>(8日、ロシア大統領府HP、ロシア語から筆者訳)。

 ロシア軍に包囲されて絶望的状況になったにもかかわらず、ロシア語を話すウクライナ兵が「ロシア人は降伏するな!」と言って死んだ事例にプーチン氏は感銘を受けている。命をささげるのがロシア国家であるかウクライナ国家であるかは本質的問題ではなく、自国のために命をささげる兵士のあり方を高く評価している。

 ロシア革命後、ソビエト政権を支持する赤軍と帝政を支持する白軍の間で展開された内戦との類比でウクライナ戦争を理解している。ウクライナ軍は欧米諸国の支援を受けた白軍のような存在で、内戦終了後、大多数の白軍将兵がソ連体制に組み込まれていったのと同様の過程がウクライナでも生じるとプーチン氏は確信しているようだ。

 欧米諸国のような生命至上主義に立っていないところにロシア的価値観の特徴がある。降伏よりも玉砕を選ぶウクライナ兵士がいる限り、ウクライナ人が欧米文化に同化することはないというのがプーチン氏の認識だ。だから、将来のロシアとウクライナの統合について楽観的に語る。

 命よりも国家の方が重要であるという考えはプーチン氏の特異なものではない。多くのロシア人によって共有された価値観なのである。しかし、14歳で沖縄戦に日本軍の軍属として参加した筆者の母親も、自分の命よりも国家の方が重要であると信じていた。戦争は人間の心から起きる。対話を続けることで、ロシア人の玉砕の思想を脱構築しなくてはならない。

(作家、元外務省主任分析官)