米側が国連軍基地の維持に努めてきた経緯を明らかにした「在日米軍基地―米軍と国連軍、『2つの顔』の80年史」(中公新書)を刊行した東京工業大の川名晋史教授に改めて朝鮮国連軍基地問題について聞いた。
―日本にとって国連軍基地のメリットとデメリットは。
「日本の安全保障が多国間の重層的な枠組みで維持されていると肯定的に捉えることもできる。米国中心の有志連合軍の軍事活動が法的に保障されていることに心強いと感じる人もいるだろう」
「一方、国民の監視の外にあるという点がある。在日米軍、特に沖縄の基地問題はメディアの監視の目があり、国民にリテラシーがある。国連軍について政府は説明しないので多くの国民に知られていない。民主主義国家における安全保障政策としては瑕疵(かし)があると言わざるを得ない」
「安保理決議が根拠となっているため、在日国連軍基地の撤退交渉に日本が関われない問題もある。国連軍が米軍基地でどういった活動をしてるのかも日本政府はチェックできないのは主権の観点からも問題が多い」
―米国側の利点は。
「有事の際に多国籍軍から支援を受けられる。米国は戦時に有志連合を組む。作戦上の効率性と同時に米国単独の戦争ではないと政治的正当性を示すことができる。朝鮮戦争の当事者の中国は安保理常任理事国でもある。新たな安保理決議が通ることはない。国連軍地位協定は二度と手に入らない既得権益だ」
―県民への影響は。
「国連軍に具体的な負担感はない。今は『スリープ状態』にあるが、有事の際にすぐに起動する。そうなって初めて問題に気づくことになる。特に台湾有事や朝鮮有事が起きた際、外国軍は沖縄の米軍基地を使用するのが軍事的に最も効率的だ。それを可能にするのは国連軍基地しかなく、重要性は高い」
「水面下で普天間飛行場移設問題にも関わっていると思う。日米の合意で国外移設は困難とされる国連軍の要素を追加して移設問題も考えると、沖縄の人にとっては非常に難しい面がある」
―国連軍基地の存在を踏まえた沖縄の基地負担軽減の方策は。
「米軍の抑止力を評価し、沖縄への基地集中を肯定している多数の人を説得する妥協点を見いだす必要がある。米軍は西太平洋地域を面で捉える。ある地域の能力が欠ければ別の地域を増強して全体の抑止力維持を図る。米軍の発想を踏まえ、抑止力を低下させない国外移設の在り方を模索するべきだ」
「まずは西太平洋地域で米軍基地を抱える国(ホストネーション)同士で協議の場をつくることだ。今、米側は軍事的効率性からホストネーションを集めて土木工事の規格統一を図る講習を実施するなど、つながりを深めようとしている。こういった流れを捉え協議の場を設ける必要がある。短期的な解決策にはならないかもしれないが、中長期で見れば変化があるかもしれない」
(聞き手 梅田正覚)
(おわり)