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防止策「広く網」 「日本版DBS」 運用が焦点


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防止策「広く網」 「日本版DBS」 運用が焦点 男性教諭による性被害の体験について話す石田郁子さん
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 「日本版DBS」制度の創設法案が閣議決定された。子どもとかかわる職業について、性犯罪歴がなくても「性加害の恐れ」だけで就業制限を可能にするなど「広く網をかけられる内容となった」(政府関係者)。ただ、子どもの安全という旗印の下で、労働者の権利が侵害されかねない「もろ刃の剣」とも言え、運用ルールの在り方が焦点となる。

 東京都の写真家石田郁子さん(46)は中学卒業の前日、担任の男性教諭の自宅に連れて行かれ、一方的にキスされた。卒業後もたびたび連絡があり、休日に会った。「好きなんだ」。先生が間違ったことを言うはずはないと思い込み、恋愛ではなく性被害だと疑うことはなかった。胸を触られるなど行為はエスカレートし、19歳まで続いた。

 高校では休み時間も同級生らとしゃべらず、勉強に没頭した。「嫌なことを考えないようにしていたのだろう」と振り返る。

 転機は2015年。性暴力事件の裁判を傍聴し、語られる体験が自身と重なった。体調を崩すようになり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された。自らも被害を訴え、教諭は21年に懲戒免職となった。

 「社会では性的な事件が矮小(わいしょう)化されている」と石田さん。DBSに関し「性犯罪は一発アウトだというメッセージになっている」と期待を寄せる一方、対象職種や犯罪の範囲をもっと広げてほしいと考える。

 こども家庭庁の有識者会議は昨年9月、制度概要をまとめた報告書を公表。これを基に法案の臨時国会提出を目指すとしたが、与党に具体案を示さないまま表明したため「時期尚早だ」と切り捨てられた。とりわけ性犯罪歴の照会可能期間について、刑法上の効力がなくなる「10年」を念頭にした点に批判が集中した。

 その後の検討で拘禁刑以上を「刑終了から20年」に倍増。性犯罪の再犯者に関し、9割が前回犯罪の有罪確定から「20年」に収まっているとの調査結果を踏まえ、内閣法制局と協議を重ねた「限界の年数」だった。

 しかし「一生排除すべきだ」と主張する一部の議員らとの隔たりは大きく、ある政府関係者は「照会期間にばかり議論が集中し、法案化の予定が狂った」とこぼす。

 昨秋の法案断念を教訓に、これまでDBS創設を前面に打ち出してきた政府の説明には微妙な変化がみられるようになった。前科の照会だけでは性犯罪全体の約9割を占める初犯を防げないとして、雇用主側が性加害の恐れがあると判断した場合にも配置転換などの措置を講じられるとした。

 職員の研修や、子どもからの相談体制の整備も盛り込み「総合的に性被害を防止する法案」だと強調。早期立法の必要性を訴え、法施行後の見直しを「5年」から「3年」に短縮することを条件に、ようやく与党側の了承を取り付けた。

 しかし「性加害の恐れ」が乱用される懸念が残る。ある保育団体の幹部は「現場が混乱しないよう丁寧な設計をしてほしい」と訴えた。