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【深掘り】こだわった「政治ショー」 県議選前の国策転換 消えぬ“たらい回し”懸念 うるま陸自施設断念 沖縄


【深掘り】こだわった「政治ショー」 県議選前の国策転換 消えぬ“たらい回し”懸念 うるま陸自施設断念 沖縄 木原稔防衛相(左から3人目)に要請書を手渡す中村正人うるま市長(同2人目)、島袋大・自民党県連幹事長(左端)、島尻安伊子衆院議員=11日、防衛省
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 うるま市石川への陸上自衛隊訓練場整備計画を巡り、木原稔防衛相は、用地取得の取りやめを正式表明した。計画の判明から4カ月足らずで、断念に追い込まれた。争点化も予想された県議選が2カ月後に迫る中、早期収拾を求める地元の声に押され、国策を転換する異例の事態となった。ただ、防衛省は沖縄本島内での候補地探しを進めており、県内で“たらい回し”になる懸念もある。沈静化を狙う国の狙いとは裏腹に、反発が県全体に広がる可能性もある。 
 中村正人うるま市長と、島袋大自民県連幹事長が要請したのは11日午後4時。「熟慮に熟慮を重ねた」。木原氏は1時間後、関係局長級を集めた幹部会で、見送りという「政治判断」を示した。

■「主体的判断」

 防衛省内では2月以降、大幅な計画見直しの検討が進み、土地取得そのものも断念する可能性が日に日に高まった。
 だが、関係者によると木原氏による取りやめ表明より前に、地権者は土地を防衛省に売却しない意向を固めていた。3月の市民集会など地域での反対の高まりの影響を受けたといい、情勢は断念に傾いていた。

 その中で、地元の反対世論を受けた計画取りやめではなく、防衛省は「あくまで主体的に判断」したことを前面に打ち出そうとしていた。背景には「反対運動の成功事例をつくれば他の案件にも影響する」(防衛省幹部)との警戒感があるためだ。

 複数の政府関係者は、断念するならば「改めて自民県連の要請を受けて決断したという政治ショーにしなければならない」と語っていた。
 一方の県連。島袋幹事長は11日、要請前に計画断念を伝える報道が出たことに「パフォーマンス的にやっているのかと県連に問い合わせがあり、ショックだ」と訴えた。

 「タイミング的にギリギリだ」。自民県議の一人は木原氏の決断に胸をなで下ろした。6月の県議選を控え、地元うるま市を中心に広がった反対のうねりは、自民県連にとっても足かせだっただけに、「われわれの成果として胸を張れる」(同県議)と意義付けた。

■世論の重さ

 だが、防衛省は陸自第15旅団を増強する「師団化」計画は変えず、本年度予算に盛り込んだ土地取得費も維持する。11日に木原氏は今後について「あらゆる選択肢を排除しない」と強調し、新たな候補地に話題が及ぶことを避けたが、実際は本島内で別の場所を探している。

 一方で、地域の根強い反対を受けて断念に追い込まれた計画について、県内で別の候補地を選定したとしても、同様の反発は必至だ。玉城デニー知事は11日午前、記者団の取材に「県内どこにも訓練施設はいらないという(県民の)声があるはずだ。引き続き、住民の声、民意を尊重するよう要望していく」と述べ、県内整備ありきの国の姿勢にくぎを刺した。

 知事周辺の一人は計画断念について「間違いなく民意の勝利だ」として保革を超えて広がった世論の重さを強調した。同時に候補地探しを諦めない国の姿勢に「県民が手放しで喜ぶ状況ではない」と気を引き締め直した。

 (明真南斗、佐野真慈、知念征尚)