全国各地の河川や地下水で高濃度汚染が明らかとなっている有機フッ素化合物PFASに関し、米政府が4月、水道水濃度の大幅な規制強化を決めた。PFASは1万種以上あるとされる人工の化学物質だが、発がん性などの毒性が強く指摘されるPFOA、PFOS2種について1リットル当たり計70ナノグラム(ナノは10億分の1)としてきた勧告値を、順守の義務もある各4ナノグラムの規制値に改めた。PFHxSなど他のPFASにも規制の網をかけた。日本は2種で計50ナノグラムを暫定目標値としているが、健康不安も高まっている。「予防原則」に立って早急に厳しい水質基準値を定めるべきだ。
PFASは米企業デュポンが1938年開発。原爆の製造にも利用された。撥水(はっすい)、撥油の性質があるため戦後、フライパンのフッ素樹脂加工や半導体製造、泡消火剤などに広く用いられてきた。
毒性判明後、国際条約で製造禁止などとなったが、今も汚染が続く。自然環境では分解されにくく、過去に廃棄・放出された物が地下などに残留していることが主因だ。
土壌に残留する泡消火剤が数百年間、地下水のPFAS汚染を続けるとの研究もある。地下水はくみ上げや河川経由で水道水に用いられている。
米政府は今回、免疫力低下や低出生体重などに関するヒトの疫学データを基に規制値を検討。検査の性能上、米国内の全水道事業者で検出可能な下限値の4ナノグラムを下回るよう義務化し、目標値はゼロと決定した。
PFAS問題に詳しい小泉昭夫京大名誉教授は「腎臓がんリスクの増加や胎児の成長低下などは疫学的な証拠がある」と指摘。日本でも海外の疫学データを基に順守義務もある厳しい水質基準にするべきだと主張する。
だがPFASの食品健康影響評価をしている内閣府食品安全委員会は2月の評価書案で「証拠は限定的だ」などとして疫学データを退け、暫定目標値決定時と同じ動物実験を判断の根拠とした。
これを受け水道水を所管する環境省も50ナノグラムの現状維持で決着させるとの観測が出ている。及び腰の背景には、PFASを利用する半導体や電気自動車(EV)など先端産業への配慮があるとの見方もある。
ある水道関係者は「米国並みに規制したら各地でパニックが起こる。経費など多くの面で対応が困難だ」と指摘する。現在は地域任せの水質管理や浄化などに、国が財政支援をすることも検討する必要があろう。
環境省が3月発表した2022年度の河川・地下水調査では、38都道府県1258の調査地点のうち16都府県の111地点で50ナノグラムを超え、もはや特定の地域の問題ではない。汚染地域・範囲の把握や原因特定、除染、健康調査など府省横断の対応も求められる。
伊藤信太郎環境相は「国民の命と健康を守るために、できる限りのことをしたい」としているが、動きは鈍い。政治主導、国主導での対策推進を強く求めたい。
(共同通信記者・阿部茂)