米首都ワシントンの、整然とした街の一角にオフィスを置く、共和党系シンクタンク「ハドソン研究所」。玉城デニー知事はコーヒーを片手にした研究者や政府関係者のまばらな拍手で迎えられると、緊張した面持ちで壇上に上がり、ゆっくりと英語で語り始めた。「沖縄の普通の人々の声を、地域を代表するリーダーとして国際社会に届けたい」
11月5日の米大統領選を目前に控える中で実施された、玉城知事による4回目の訪米活動。期間中の9月10日には民主党のハリス副大統領と共和党のトランプ前大統領による初のテレビ討論会も開かれた。大統領選は、知事の訪米活動にも直接的な影響を及ぼした。
契機となったのは7月13日に発生したトランプ氏銃撃事件だ。演説中に銃撃され、血を流しながらも拳を突き上げた写真が世論を席巻。より当選確率が高い「ほぼトラ」になったとの見方が県庁内で強まり、共和党と近いシンクタンクとの関係構築を目指す動きが活発化した。その後、バイデン氏撤退とハリス氏の出馬表明など情勢が揺れ動く中、結果がどう転んでも沖縄の意向が反映されることを目指した。
共和党との関係構築の中でも県が力を入れたのが、保守系シンクタンクの“代表格”とも言われるハドソン研究所でのシンポジウムの開催だった。県ワシントン駐在の働きかけで実現した。知事の対談相手となった同研究所日本部長のケネス・ワインスタイン氏は、トランプ前政権幹部と近く、同政権時には駐日大使候補ともなった人物。基地負担軽減を求める玉城県政との立場も異なるハドソン研究所での講演は、研究所関係者から「檻の中に飛び込むようなものだ」ともささやかれ、驚きをもって受け止められた。
知事は基調講演で、沖縄の歴史や基地負担の現状、辺野古新基地建設の技術的な課題などを、数値や図を使って説明。「私は日米同盟を認めている」との立場を繰り返し説明し、現実的な安全保障論を語り合える関係だと強調しながら、国土の0・6%の県土面積に7割超の米軍専用施設が集中する不平等さを客観的に訴えて、沖縄の基地問題への理解を促した。
対談後、ワインスタイン氏は本紙の取材に対し、沖縄の基地負担の現状に理解を示し「今後も継続する必要がある重要な議論の道筋ができたと感じた」と沖縄に向き合う姿勢をみせた。
一方、県は民主党系とのつながり維持にも目配りした。今回初の試みとして、米民主党下院のリベラル派が所属する「プログレッシブ議員連盟」(CPC)の定例会議に出席し、基地負担の現状を説明。有機フッ素化合物(PFAS)の問題に取り組む議員らと接触し、基地への立ち入り調査の実現も要望した。
県幹部の一人は「新しい取り組みをどんどんやっていこう、と取り組んだ」と振り返った。
中でも「アウェイ」(県幹部)であるハドソン研究所での講演を成功裏に終えたことに、県側は確かな手応えを感じている。別の関係者は「本当に成功と言えるかは、ハドソンでの2回目の講演ができるかどうかだ」と気を引き締めた。
◆ ◆
県知事として23回目となった今回の訪米活動。11月の米大統領選を控える中、民主・共和両党の連邦議員との面談などを実施した。基地問題解決に向けて協力者を増やすことを目指し、学生や研究者に向けた講話も重ね、「発信」に重きを置いた。今回の訪米活動の狙いや課題を探る。
(石井恵理菜、知念征尚)