米ホワイトハウスから北西へ伸びるコネチカット・アベニューのビルの一角に設けられたオフィス。県が2015年4月に設置したワシントン事務所だ。県職員2人を含む3人が駐在し、沖縄の基地問題を発信したり、情報収集したりする拠点となっている。
事務所開設から今年3月末までに連邦議会関係者3030人、国務省関係者123人、国防総省関係者73人、副大統領経験者1人など、延べ5778人と面会した。
知事訪米中は駐在の存在感が際立った。玉城デニー知事は10日、共和党下院議員のジェームス・モイラン氏の補佐官と面談。モイラン氏は辺野古新基地建設を巡り、軟弱地盤などを懸念し、米会計検査院(GAO)に調査の実施を求める書簡を提出している。駐在職員が同氏の事務所に通い詰め、辺野古の技術的課題を説明していたことが、書簡提出につながった。
書簡は県側の言い分を丸のみしたものではない。インド太平洋地域での米軍の重要性を強調した上で、辺野古の技術的課題によって米側に不利益が生じないかに焦点を当てている。海兵隊の活動に及ぼす影響や、米国が負担する長期的な維持費などをただしている。
書簡提出で直ちにGAOが調査を始めるわけではないが、保守派の中にも辺野古新基地が及ぼす長期的な影響に懸念が広がっている証左とは言える。県関係者は「別の議員との連名で書簡を出してもらうよう取り組むことが、実際の調査につながる」と今後を見通す。
確かな手応えを見いだした今回の訪米。玉城知事も記者団に「ワシントン駐在が確実にネットワークを広げている」と繰り返し、駐在を増強したい考えを明かした。
ただ、駐在の維持にも荒波が待ち受ける。与党少数の県議会で次年度予算は厳しい審議が予想されるからだ。野党の自民会派はワシントン駐在の経費廃止を訴えており、県内部では駐在最後の年にしてはいけないと、従来以上に一丸で準備に臨んだ訪米でもあった。
一方、ある自民県議は「(歴代知事が)20回以上も訪米したが、その成果は見えない。現実問題として辺野古の工事は進んでいる」と指摘する。「行政は費用対効果が常に求められる」とし、駐在経費も「これまで通り反対する」と語った。
基地問題解決は一朝一夕とはいかず、効果も見えにくいが、継続的に沖縄の民意を発信する取り組みはますます重要となる。ただ情報発信の方法など、新たなアプローチの模索も求められる。
13日、国連本部での面談で訪米活動を締めくくった玉城知事。「ワシントン駐在のこれからの必要性、重要性を丁寧に説明し、理解を得ていく」と気を引き締めた。
(石井恵理菜、知念征尚、佐野真慈)
(おわり)