首都ワシントンにある名門ジョージ・ワシントン大学。講演を終えた玉城デニー知事を集まった学生らが取り囲む光景が広がった。
質問が矢継ぎ早に投げかけられ、教室は熱気に包まれた。「沖縄の問題意識を共有していければ、必ず若い皆さんの考え方や行動にもつながってくる」。玉城知事が手応えを感じた瞬間だった。
舞台となったのは同大学のエリオット国際関係大学院。国際関係学や安全保障学に特化し、世界的な地位を確立しており、政府関係者や研究員などを輩出している。
辺野古新基地建設の大浦湾側での工事強行や米兵による性的暴行事件が明るみに出るなど、過重な基地負担が改めて浮き彫りとなった今年、県は従来よりも上級の政府関係者との面談を求めたが、国務省・国防総省の面談は今回も日本部長の対応にとどまった。基地を使用する当事者の米国による、沖縄への“冷遇”は続いている。
米政府への要請が成果に結びつきづらい状況が続く中、県は今回、訪米活動の中心を要請から、シンポジウムといった多くの人との交流や発信へと移していった。知事周辺は「協力者を集めるのがミッション」だと意図を明かした。
訪米中のシンポ開催自体は玉城知事になって以降継続していたが、3回の実施は今回が初。ジョージ・ワシントン大学やニューヨークの名門コロンビア大学で知事の講演を聴いた学生らからは「日本の政治の議論は中央政府が中心で、沖縄の声が反映されていない」「基地問題解決に向けて尽力する知事の取り組みを評価する」など、沖縄に寄り添う意見や質問が飛び交った。
シンポでは玉城知事自ら英語でスピーチし、沖縄の基地負担などを説明した。週末に知事公舎で訪米同行職員とスピーチを特訓し、3度の講演を全て英語で行い「自分の言葉で伝えること」を重視した。玉城知事は「英語で話したことで質問も増え、直接話しかけてくれるなど、沖縄の実情や私の考えが米国の方に着実に伝わった」と手応えを示した。
今回、交流した学生らは、米国の中央省庁やシンクタンクに籍を置き、米国の政策立案に深く関わっていくことが期待されている。県関係者は「お願いベースだけではなく知事自らが発信することで、米国内でアクションを起こしてもらい、世論形成につなげたい」と話した。短期的な解消が難しい基地問題の解決に向けた、息の長い取り組みも始まった。
(石井恵理菜、知念征尚)