在宅障がい児医療的ケア 理学療法士・酒井さん調査


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 人工呼吸器の使用やたんの吸引、胃瘻(いろう)への栄養注入など医療的ケアを必要とする障がい児を在宅で養育する保護者は「目が離せない」「相談相手がほしい」「医学的知識の不足」などの悩みを抱えており、養育の困難さを強く感じる主な要因となっていることが、那覇療育センターの理学療法士・酒井洋さん(53)による調査で、6日までに分かった。

家族の人数の少なさも強い困難感との関係が高い。また、主な担い手の96%は母親で、平均睡眠時間は5・1時間にとどまり、母親に介護が偏っている実態も浮き彫りとなった。
 酒井さんは、保護者が抱える困難感の強さが、介護・医療職ら支援者との関係性に影響していると分析。困難感の軽減に向けて、家族と信頼関係のある支援者を介助者として契約し、病児の養育全体を代替してもらう「パーソナルアシスタンス制度」を県内に導入するよう提案している。
 酒井さんは放送大学大学院の修士論文で、2011年6月から7月にかけて小児在宅医療基金「てぃんさぐの会」などの支援家庭で、在宅で医療的ケアを実施する主な養育者にアンケートを実施。家庭状況や医療的ケアの内容、困難に感じている項目を聞いた。53人が回答し、記載不備などを除く49人の回答を分析した。
 調査では困難に感じている項目と「困難感の強さ」の関係を、1に近いほど関係性が高くなる相関係数を使い分析した。それによると「目が離せなくてストレス」(0・552)、「将来が不安」(0・461)、「差別・偏見を感じる」(0・393)、「保護者仲間の相談相手がほしい」(0・390)、「医学的知識の不足」(0・315)などが保護者の感じる困難感に大きく影響している結果となった。主に養育するのは母親が96%で平均年齢41・8歳、家族人員は平均4・8人だった。医療的ケアに費やす時間は1日平均4・6時間でケアの種類は7・9個だった。
 自由記述では「1人でのケアが大変」という記入が11件あった。「重度障がいの娘2人のケアを1人で行っている。自分ができなければ先がどうなるか不安」との声もあった。
 酒井さんは「共感に基づいた支援者との関係性があれば、母親の安心感が高まり困難感が軽減されるのではないか」と指摘。養育者が高度な医療的ケアの技術を学ぶ研修機会の提供、短期入所や一時預かり施設の充実も必要とした。

<用語>パーソナルアシスタンス制度
 自治体が在宅の重度障がい者に対して、介助に要する費用を直接支給し、利用者がライフスタイルに合わせて、介助者と直接契約を結び運用する制度。北欧諸国、英国、米国などが導入。日本では札幌市が障害者自立支援法に基づく重度訪問介護の支給決定者を対象に実施している。利用者が介助者を選び契約を交わすなど自己決定ができる点が特徴。時間帯に応じて報酬額も設定できるため、従来の制度以上に必要に応じた介助時間を確保できる可能性がある。

那覇療育センターの理学療法士・酒井洋さん
療育の困難感と関係のある項目