『沖縄観光進化論』 行政経験に基づく考察


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『沖縄観光進化論』下地芳郎著 琉球書房・2000円

 さまざまな観光危機に直面し乗り越えてきた行政の第一人者がわが県の観光の進化の過程と、現状を総括した貴重な一冊である。読後、本書のように沖縄観光を大局的にかつ懇切丁寧に書きつづった300ページを超える単著が、今後現れるのかと素直に感じた真作である。

 前半の三部は行政マンとして沖縄観光の変遷を粛々と網羅しながらも、地域社会の発展における観光の経済的・精神的意義、「沖縄21世紀ビジョン」の理念の下での平和で豊かな沖縄県の構築、そして、自らも最前線に立ってきたさまざまな沖縄観光の危機への備えの重要性について、行間から溢れ出る情熱を読み取ることができる。特に観光危機管理の部は、著者の経験と実践に基づく考察で、より具体的に課題を抽出し説得力ある章となっている。危機への迅速な対応を実現するため「沖縄観光危機管理基金」の創設も唱えている。
 沖縄観光の歴史では、琉球王国時代の人々の往来から明治・大正期を経て戦前、そして復帰前や海洋博前後の状況、加えて当時の行政の組織体制や現OCVB設立過程まで、分かりやすく回顧している。観光関係者には大変貴重な資料である。
 後段では、著者が立教大学大学院博士前期課程で専攻した「観光地のブランディング」という研究分野を基礎に、沖縄観光におけるブランディングの在り方を多様な統計データを用い、方向性を示している。ブランドの価値を「機能的」「情緒的」「自己表現的」という三つの便益に分類し、観光ブランディングの重要性を説いている。また、製品同様、観光地でも「よいものが売れる」のではなく「顧客がよいと感じたものが売れる」とブランディングの本質に言及している。
 自ら携わってきた一括交付金事業についても詳しく紹介している。一括交付金元年という意味でも本書の出版はタイムリーである。
 冒頭に本書を越えるものが出てくるのかと述べたが、著者が行政を離れ、沖縄観光をさらに鳥瞰(ちょうかん)できる立場になったとき、本書の続編を期待したい。
 (東良和・日本旅行業協会理事)
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 しもじ・よしろう 1982年沖縄県庁入庁。県香港駐在員、県観光振興課長を経て、県文化観光スポーツ部観光政策統括監。

沖縄観光進化論
沖縄観光進化論

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下地 芳郎
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