『新・先住民族の「近代史」』 虐げられた民族から見た日本


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『新・先住民族の「近代史」』上村英明著 法律文化社・2500円+税

 私たちが読む歴史の大半は、権力闘争の勝者たちが書いた、勝者に都合のよい記録だといわれる。敗者や虐げられた人々の記録は、時の権力者によって抹殺されたり、時の流れとともに忘却のかなたに追いやられたりしてきた。勝者の記録は次第に歴史の「真実」とされ、疑うことのない社会の「常識」に祭り上げられる。

 この本は、日本の近・現代史の、そんな「常識」を覆し、現在につながる矛盾を鋭くえぐる視座が据えられている。キーワードは「先住民族の視点」「植民地主義」。日本の国民国家形成あるいは日本帝国の領土拡張の過程を国際法と照らして検証し、虐げられた民族の視点で日本の植民地主義を暴いている。重要なのは、植民地主義が今も続いているという指摘だ。
 日本政府は北海道と沖縄を「植民地」と認めたことはない。著者は、両地域が「植民地」として日本に一方的に併合されたのは、アイヌ民族や琉球・沖縄民族の視点に立てば明らかだとし、こう続けている。
 「先住民族の権利の視点がなかったために、日本の歴史学をはじめとする社会科学が、この大日本帝国の詭弁(きべん)に150年にもわたって誤魔化されて、『北海道』と『沖縄』を植民地問題のスコープからはずしてきてしまった。その結果、依然として『植民地政策』や『同化政策』が続行中であるという事実に向き合うことも忘れ去られている」
 本書は両地域の歴史を、そのスコープ(視野)に入れ、国際法と丁寧に照らして国際基準から捉え直している。見えてくるのは、日本という国の素顔だ。
 「先住民族の『近代史』-植民地主義を超えるために」の復刻版だが、尖閣問題の論文を加えるなど沖縄関連の記述は一層厚く、今の沖縄に引きつけられていて新鮮だ。名護市辺野古の新基地建設問題を中心とする「構造的差別」や、問題の本質をより深く理解する上でも、大きな一助となろう。今、アイデンティティーを問い直しているウチナーンチュにとって、座右に置きたい一書だ。(新垣毅・琉球新報編集委員)
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 うえむら・ひであき 1956年、熊本市生まれ。早稲田大大学院経済学研究科修了。現在、恵泉女学園大教授、市民外交センター代表。編著書に「市民の外交-先住民族と歩んだ30年」(法政大学出版局)など。

新・先住民族の「近代史」: 植民地主義と新自由主義の起源を問う
上村 英明
法律文化社
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