『マーシャル諸島 終わりなき核被害を生きる』


社会
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『マーシャル諸島 終わりなき核被害を生きる』竹峰誠一郎著 新泉社・2600円+税

米核実験被害の真実に迫る
 アメリカは第2次大戦後の核開発のため、中部太平洋マーシャル諸島ビキニ環礁を実験場に選び、「人類の幸福と世界の戦争を終わらせる」と称して住民を強制移住させ、2年後にはエニウェトク環礁も接収して1946年7月から58年にかけて67回の原水爆実験を行った。

 著者は学生時代にマーシャルを訪れて以来15年以上10回余の調査活動の中で、4年前に博士論文をまとめ上げた。本書はその改訂・新情報を加えての単行本化で、ずしりと重い。
 54年3月1日の水爆ブラボーは広島原爆の千倍、日本の漁船第五福竜丸に死の灰を浴びせ、ロンゲラップ、ウトリック、アイルック環礁住民が被ばくした。米政府は「予期せぬ出来事」と今も言うが、「実験前に住民を避難させなかった」「被曝(ばく)した人間の調査計画」など疑念は尽きない。
 被ばくにより収容したウトリック住民を3カ月後に、ロンゲラップ住民を3年後に帰島させるが、それにより「貴重なデータが得られる…彼らは文明人ではないがネズミよりはわれわれに近い」という米原子力委員会の資料が存在し、長年住民対象のデータ収集が実施された。被ばくはないとされたアイルック住民の被害は著者の聞き取りで明らかにされるが、軍資料には放射能汚染が記録されていた。
 日本統治下ゆえに巻き込まれた日米戦闘、戦後の米国支配下での実験場と基地化の70年余。被害者・証言者百人以上の丹念な聞き取りからは、土地に立脚し自然と共生する共同体の暮らしの喪失、健康を冒され、流産や死産、子どもの障害など翻弄(ほんろう)された流浪の人生が浮かびあがる。著者は、証言と実験当事者である米政府・軍部の資料、公文書を探索し分析して重ね合わせることで真実に迫っていく。「終わりなき核被害を生きる」姿が具体像を結び可視化される。
 人々は米政府に対して補償を求め国際世論に訴え、屈しない抵抗を続ける。対して、隠蔽(いんぺい)・過小評価・情報操作などで弱者をねじ伏せようとする強者のありようは、私たちを取り巻く状況とも通底する。(安田和也・第五福竜丸展示館学芸員)
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 たけみね・せいいちろう 1977年、兵庫県生まれ。2012年、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程修了。博士(学術)。現在、明星大学人文学部人間社会学科教員。

マーシャル諸島 終わりなき核被害を生きる
竹峰 誠一郎
新泉社
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