『戦後70年史』 激動の戦後70年とその先


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『戦後70年史』色川大吉著 講談社・1500円+税

 戦後日本の70年の昭和、平成の時代を描き、冷戦体制からテロの時代までを叙述した現代史の著書である。読者には自己の生きる今を顧みる好著であり、戦争体験も持つ世代にとっては、特別な思いを持って手にすることのできる本であろう。本書の特色は、時代概念を規定する言葉をより平易な言葉に置き換え、それに親しみのある民衆的な市民の人物を等身大の姿で登場させていることであろう。

 敗戦を契機に、連合国の指導する戦後民主主義の源泉を明治の自由民権に、あるいは大正デモクラシーに求めるのは、政治の思想と制度への力点の置き方に相違するものであろうか。おそらく両者の伝統の延長上に位置するであろう。著者の色川大吉は、自由民権の思想を民衆史の視点で再構成した「明治精神史」を持つ歴史家である。有名な言葉に、歴史は過去との対話であるといわれる。

 色川史学のユニークさは、実証研究に基盤を置きながら、その対象とする過去に冷静に自己を関わらせる、すなわち同時代史の手法である。この本には、客観的な歴史叙述と自己の日記からの引用が、神妙な調和を保ちながら表現され展開されている。よく言う、「あらゆる歴史は現代史」であれば、色川史学は、まさにそれを実証し実現していることになる。

 日本の戦後70年は、同じく著者色川個人の世紀でもある。その時代を歴史分析の犀利(さいり)にえぐり格調高い文章で記述する。著者の意図した言葉はこう述べる。戦後70年の時代は「自分史的な記述方法では言い尽くせないと考え、時代状況、置かれていた場と切り結ぶ叙述を重視する方法を選んだ」と。「明治精神史」刊行の50年目にして本書の出版を見ることは、戦後民主主義が、長い戦争の歴史の反省の上に立った所産であり、戦後政治を象徴する憲法は、政府や政治家の暴挙によって消せるものではない。

 著者は、戦後70年のその道筋を明らかにしながら、9条改正の危険性に警鐘を鳴らし続ける。沖縄の基地問題にも触れている。過去の国民が何を考え何を伝えたいと思ったのかを言葉の力を借りて説く。戦争体験者の重い言葉を若い世代の人はどう受け継ぐのか、クリオの顔が人知れずほほ笑む。
 (我部政男・山梨学院大名誉教授)

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 いろかわ・だいきち 1925年、千葉県生まれ。東京大学文学部卒。東京経済大学名誉教授。専門は日本近代史、思想史。主著に「明治精神史」「近代国家の出発」など。

戦後七〇年史
戦後七〇年史

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講談社
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