【島人の目】マイティー・ハート


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 独立系映画を対象とする米スピリット賞の候補が発表され、作品賞に、ボブ・ディランの半生を描いた「アイム・ノット・ゼア」など5作品が並んだ。甲乙つけ難い作品ばかりだが、私が推すのはアンジェリーナ・ジョリー主演の「マイティ・ハート」だ。
 ブラッド・ピットとアンジェリーナが、製作と主演ということでも注目を集めた同作品。原作は、2002年1月、パキスタンで殺害されたウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙のダニエル・パール記者の妻マリアンヌがつづった手記。彼女は、大手スタジオのオファーをけり、心から原作を理解するピットに映画化を委ねた。
 WSJ紙は、「スーダンでの米軍の誤爆を最初に指摘した優秀な記者」と誇るダニエルを、アフガン戦争終結後、同時テロの真相を解明するためパキスタンに送った。
 映画では、夕食には戻ると言って取材に行った夫が誘拐され、テロ組織と政府間による命のやりとりが展開されていく。殺されたと知ってマリアンヌが絶叫する場面で、「もし私が彼女の立場ならあそこまで強くいられるだろうか」と思わず自問していた。
 この映画を見たい理由が、興味本位だったとしても構わない。なぜなら、きっとあの場面で皆「愛する人が殺されたらどうするか」という問いに直面すると思うからだ。その問いを投げ掛けることができただけで、この映画が持つ意義は大きい。
 パール記者の死後、戦争の終わらないアメリカでは今もWSJ紙の報道への取り組みは続いている。スピリット賞の授賞式は来年2月23日。
(平安名純代、ロサンゼルス通信員)