【石垣】創業45年。石垣市新栄町の老舗「でいご食堂」が12月24日にのれんを下ろす。店主の金城晴成(はるしげ)さん(77)が「体力の限界」と高齢を理由に閉店を決めた。共に店を切り盛りしてきた妻の悦子さん(74)は「あっという間だった」と半世紀近い年月に感慨深げ。味良し、量良し、接客良しの三拍子そろった「石垣の隠れた名店」が地域の人に惜しまれつつ、店をたたむ。
11月に入り、店内外に「お礼」と題して、閉店を告げる張り紙が貼られた。客からは「えっ、うそ」「ショック」「跡継ぎいないの?」と閉店を惜しむ声が寄せられている。
那覇市出身の晴成さんは「絵が好き」な少年だった。高校卒業後、都内の美術系の大学を受験するも不合格。特に深い理由はなく、都内の洋食店などに勤務し、料理の腕を上げていった。23歳ごろに独立し、都内ででいご食堂を始めた。26歳の時、親族の紹介で悦子さんと出会い結婚した。
晴成さん33歳、悦子さん30歳の頃、悦子さんの故郷である石垣島に移り新たなスタートを切った。当初は石垣中学校近くの市新川で営業した。10年ほどたち、新栄町で空き店舗を見つけ、現在の場所に店を構えた。以来、35年間、地域住民らの胃袋を満たしてきた。
店は食堂と冠するが、提供するメニューは中華。ラーメン、餃子(ぎょうざ)、チャーハン、中華丼などの品書きが並ぶ。晴成さんが独自で学んだ味でつくる。悦子さんは「発想だよね」と夫の料理に全幅の信頼を寄せる。店の一番人気は4~10月限定のボリューム満点の冷やし中華だ。大きな皿に盛られた麺の上に、錦糸卵、きゅうり、チャーシューが乗っている。具と麺を甘酸っぱいたれに浸し口に運ぶ。病みつきになるおいしさだ。多い時は1日50食も売れる。
接客は悦子さんの義理の姉、下地初子さん(75)が担っている。開店当初から45年間、夫婦と共に店を支えてきた。客でごった返し、忙しい時でも笑顔で優しい下地さんの接客は客からも好評だ。
45年の歴史を振り返り、晴成さんは「ただただ感謝」と客への思いが募る。悦子さんはお礼の張り紙を貼る際「本当に辞めるんだと胸が詰まった」。残り1カ月に向け、晴成さんは「忙しくなるだろうな」とつぶやいた。最後までこれまで通り気負わず「淡々と」中華鍋を振り続ける。
(照屋大哲)