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わずか164票差の勝利 「誹謗中傷」に告訴、士気高まる<激戦の先に 2024糸満市長選>上


わずか164票差の勝利 「誹謗中傷」に告訴、士気高まる<激戦の先に 2024糸満市長選>上 再選の報にガッツポーズする當銘真栄氏=16日午後11時43分ごろ、糸満市の武富公民館(喜瀨守昭撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 岩切 美穂

「厳しく苦しい選挙だった」。16日に投開票された糸満市長選で、再選を決めた現職の當銘真栄氏(58)は支持者を前に、選挙戦をそう振り返った。現職と前市議2人、元県議1人の計4人が立候補し、現職が前市議をわずか164票差で制した激戦を振り返る。

 當銘氏は2020年の市長選で、前市長に4482票差の1万4197票を獲得し大差で勝利した。前市長への批判票の受け皿となった。今回の得票数は9403票で、前回より4794票減らした。

 票が減った大きな要因に、當銘陣営は今回対抗馬の1人となった元県議の上原正次氏(68)を挙げる。大票田の糸満を地盤とし、市内最大の門中の出身でもある上原氏は4年前、県議選に出馬して、當銘陣営と実質的なセット戦術を展開した。

 その上原氏が「現市政は土地を有効活用できていない」などとして市長選に出馬表明したのが昨年6月。秋以降、市議(当時)で保守系の新垣勇太氏(39)、革新系の賀数郁美氏(41)も相次ぎ出馬表明した。

 上原、新垣の両陣営は自民に推薦願いを出したが、推薦は得られなかった。4年前同様に政党の推薦や公認を受けず「市民党」を打ち出した當銘氏含め、全陣営が無所属で選挙戦に挑んだ。前市長の支持層に支えられた新垣氏が當銘氏に攻勢を仕掛け、當銘氏が応戦し、上原氏、賀数氏が続く展開となった。

 新垣氏は商工会や観光協会、漁協など各種団体や企業の票を手堅く押さえ、地盤の糸満や両親の出身地の三和を固めた。県議選の新垣新氏(自民)、大田守氏(維新)の支持層の票も取り込み、SNSの積極活用で若者や無党派層の支持を広げて、勢いに乗った。

 當銘氏は地盤の兼城を中心に西崎や三和で浸透した。糸満は上原氏の出馬で票を減らしたものの、後援会長であり元市長の上原裕常氏ら陣営幹部が糸満出身であることから一定の票を確保。さらに、糸満出身で當銘氏の支援者の玉城安男氏が県議選に出馬し當銘氏とセット戦術を打ち出したことで當銘氏の糸満の得票が上積みされた。前回は當銘氏に入った革新系の票が賀数氏に流れたとの見方もある。一方、今回は公明が推薦する候補者がいないことから、公明市議2人が個人的に當銘氏の支援に回り、前回は前市長を支持した公明の2千票余りの大半が當銘氏に入ったとみられる。

 當銘陣営が対応に苦慮したのが、「勝手連」と称する市民による誹謗中傷のビラや立て看板だ。中傷合戦になるのを懸念し、反論すべきか陣営内で意見が分かれたが、告示の1カ月前、刑事告訴に踏み切った。

 終盤にかけて、老朽化した市社会福祉協議会の施設建て替えを、新垣氏や賀数氏が市議会で否決したことも集会などで強調し、高齢層の支持を得た。陣営幹部は「中盤まで新垣氏にリードされていたが、市長が告訴を決断した瞬間から反撃に転じた。市民の誤解が解け、士気も高まった」と振り返る。別の関係者は「新垣氏が主張した『民間活力』は、高齢者には響かなかったのでは」と分析した。

 落選を受け、新垣陣営の幹部は「勢いは勝っていた。SNSで若者や無党派を獲得したが、50代以上に浸透しきれなかった。SNSに頼りすぎた」と肩を落とした。 (岩切美穂)