フランス時間の午後7時半、街に鐘の音が鳴り響いた。ルーブル美術館とノートルダム大聖堂の間のパリ中心部。パリ発祥の地として知られるシテ島に架かるシャンジュ橋からセーヌ川を眺めた。五輪史上初の競技場外での開会式が始まった。
ギリシャの船上パレードを先頭に、戦争などで故国を追われた難民選手団が続いた。天気は曇りから雨に変わり、次第に本格的に降り始めた。
それでも選手は船上で輪になって踊ったり、観客と一緒に手でウエーブをしたりして楽しんでいた。パレスチナ選手団にはひときわ大きな声援が飛んだ。パリ郊外に住むレオニ・ヒュゲンさん(19)は「戦争に反対する意見を伝えたかった。政治的に難しい状況での開会だけど、エネルギーに満ちていて(五輪を)開催することの大切さを感じた」と語った。
セーヌ川沿いの各地では、ファッションなどでフランスらしさを表現するパフォーマンスがあった。シャンジュ橋付近では、大型スクリーンにミュージカル「レ・ミゼラブル」の劇中歌「民衆の歌」が流れ、「liberté(自由)」と表示された後、フランスのメタルバンド「ゴジラ」がパワフルな演奏を披露した。
式中に2度、パトカーのサイレン音を聞いたが、観客は気にとめる様子もなく踊ったり歌ったりしていた。ロシアとウクライナの戦争やパレスチナ自治区ガザへの侵攻を思い起こさせるように、燃えるピアノを背にジョン・レノンさんが平和のメッセージを込めた「イマジン」が歌われた。
旅行中の筑波大付属中の首藤琉花さん(14)=東京都=は「世界的に注目されるオリンピックだから伝わりやすい。元々ある建物を会場にしたり、男女のアスリートを一緒にしたり、新しい価値をどんどん取り入れている」と理念に共感した。
午前中に高速鉄道TGVを狙った放火事件があり駅は騒然としたが、厳戒態勢の中で式は予定通り実施された。「たゆたえども沈まず」。パリ市の紋章に刻まれている。幾度も革命やテロを経たパリのセーヌ川は、うねりを見せながらゆるやかに揺れていた。(古川峻)
◆パリ五輪、県勢活躍伝えます 古川記者を現地派遣
琉球新報社は、パリ五輪に出場する県勢選手らの取材のため、フランスに古川峻記者(暮らし報道グループ運動班)を派遣しました。7月24日から8月11日まで、主に県勢5人が出場する重量挙げや自転車ロードレース、サッカーなどの取材に当たります。
パリ五輪には重量挙げの宮本昌典、自転車ロードレースの新城幸也、サッカーのGK野澤大志ブランドン、母が石垣島出身の水球男子のGK棚村克行、父が豊見城市出身のアーティスティックスイミングの比嘉もえの5人の県勢が出場します。