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【まとめ】こんなにある「辺野古新基地」問題点 知事、設計変更承認の判断リミット迫る 沖縄


【まとめ】こんなにある「辺野古新基地」問題点 知事、設計変更承認の判断リミット迫る 沖縄 米軍普天間飛行場の移設先として工事が進む名護市辺野古の沿岸部。奥が大浦湾=5月
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 辺野古新基地建設を巡り、政府は玉城デニー知事に軟弱地盤改良工事の設計変更承認を迫っている。ただ、膨らみ上がる事業費、改良が可能なのか疑問が拭えない軟弱地盤への対応、工期の長期化によって遠のく普天間飛行場の返還など、問題山積の事業だ。知事は「必ずどこかの時点で何らかの問題が生じる」と批判する。辺野古埋め立てを巡る問題点をまとめた。

地盤改良工事 完成後に沈下の恐れ

 新基地建設が進められる大浦湾の海底には構造物を建てることができない軟弱地盤が広がっており、防衛省は地盤改良工事を計画に追加した。想定しているのは、砂などで造ったくい約7万1千本を海底に打ち込んで地盤を固くする工事だ。

 大浦湾の軟弱地盤は水面下約90メートルの深さまで達しているが、防衛省は同70メートルまでの改良で問題ないと説明している。未改良の地盤が残り、完成後も沈下することが予想され、かさ上げの補修工事などが必要となる可能性もある。

 防衛省は自ら選定した専門家を集めて技術検討会を開催し、改良の内容にお墨付きを得たと考えている。だが、その過程でもさまざまな問題が指摘された。地盤が軟弱であることを示す一部のデータを除外した上で技術検討会に諮っていた。

 全6回開いた最後の検討会で、それまでの議論の土台となった資料に20項目の誤りが判明した。資料の差し替えは38ページにわたり、複数の箇所を修正したページも多い。資料の誤りに気が付いた時点ですでに検討会は5回開かれていたが、うち4回で誤った資料を使っていた。

 (明真南斗)

政府の調査不足 力学的な試験行わず

 県は沖縄防衛局の設計変更申請を不承認とした際、軟弱な地盤が最も深い水面下約90メートルに達する地点「B27」について、力学的試験がされていないことを問題視した。

 B27の地盤について、受注業者の調査結果は、地盤改良する予定の70メートルよりさらに深い地盤も軟弱と示していた。しかし政府は、調査結果の存在が報道されるまで、B27地点での強度調査はしていないと説明していた。

 政府は設計変更申請で、B27地点の力学的な試験を行うことなく、別の3地点の測定結果から強度を類推している。この3地点はB27地点から約150メートル、約300メートル、最も遠いB58地点は約750メートル離れていることから、県は不承認の際に「(B27)地点周辺の性状等を適切に考慮しているとは言いがたい」と指摘した。

 しかし、今年3月の福岡高裁那覇支部の判決は、県の不承認について「裁量権の逸脱又は濫用がある」と判断した。大規模な工事で、調査を徹底しようとしない怠慢とも映る政府の姿勢を司法が追認した形と言える。

 (沖田有吾)

周辺海域 希少種への影響懸念

 名護市辺野古の周辺海域は、絶滅危惧種のジュゴンやオキナワハマサンゴをはじめ、多様性に富んだ生物が生息することで知られ、2019年には米環境NGOから「ホープスポット」(希望の海)に認定された。

大浦湾の豊かな海草藻場=2021年9月

 本島北部の海域では、3頭のジュゴンの生息が確認されていたが、工事開始から現場近くで姿が見られなくなった。19年3月に1頭が死んでいるのが見つかり、残り2頭は姿が確認されていない。

 22年7月には新基地建設工事の現場に近い名護市久志の沿岸部でジュゴンのふんが発見された。沖縄防衛局は、工事に関して有識者が助言する「環境監視等委員会」の指導・助言を得ながら工事を継続する考えを示しているが、工事が環境へ及ぼす影響が懸念されている。

 (與那原采恵)

膨らむ事業費 県試算、2兆5500億円

 2014年に当時の小野寺五典防衛相は国会答弁で総事業費を「3500億円以上」と説明した。その後、大浦湾側の軟弱地盤の存在が明らかになり、地盤改良工事が必要になることが判明。19年12月に防衛省は地盤改良を含めた総経費として約9300億円かかるとの見通しを提示した。

 防衛省によると、22年度末までに4312億円を支出。水深が浅く大浦湾側よりコストが低い辺野古側の工事のみで、9300億円の約46・3%を支出している。

 一方、23年度当初予算では、新基地建設関連予算は22年度比874億円増の1882億円を計上した。この予算には着工できていない大浦湾側の埋め立て工事費用も含まれている。仮に当初予算を予定通り使い切れば23年度末までに総経費のうちの66・6%を占める6194億円を支出予定。

 だが、大浦湾側の工事はまだ着手されていない。県は実際の総経費はさらに膨らむとみて、2兆5500億円になるとしている。

 (梅田正覚)

工事長期化 普天間返還30年以降に

 防衛省の計画によると新基地の運用開始は、県が設計変更を承認してから最短で12年かかる。工事が予定通りに進んだとしても、普天間飛行場の返還は2030年代となるのが確実だ。県は、辺野古移設は政府が強調する「普天間飛行場の一日も早い危険性除去」にはつながらないとして計画の見直しを求めている。

 普天間返還が日米両政府間で合意されたのは1996年で、示された返還期限は「5~7年以内」だった。2006年の日米合意で新たに「2014年」と設定され、11年には「できる限り早い時期」と上書きされた。13年4月に合意された統合計画では「22年度またはその後」とされたが、このめども過ぎた。返還時期は3年ごとに見直す規定があるが、13年合意以降、今も見直されないままだ。

 統合計画は、普天間返還の条件として施設の移設を含め八つを規定。辺野古の埋め立てが完了したとしても、直ちに返還されない可能性が指摘されている。

 (知念征尚)

民意 県民投票「反対」7割超

 新基地建設に反対する民意は全県選挙や県民投票などで示され続けているが、政府は「辺野古移設が唯一の解決策」(松野博一官房長官)などと省みることはない。

 2019年の県民投票では全市町村の投票者の7割超が埋め立て反対の意思を示した。

 昨年の知事選後に研究者グループが実施した「政治参加と沖縄に関する世論調査」で、「普天間基地は名護市辺野古に移設すべきだ」との考えに反対が46%、賛同が29%、「どちらともいえない」が25%だった。

 辺野古新基地建設についての設問で「沖縄の基地負担の軽減にはならない」に「そう思う」が47%、「ややそう思う」が25%だった。基地負担軽減策として政府が推進する新基地建設は県民の賛同を得ているとは言えない。

 (梅田正覚)

騒音被害 経路外飛行で増加も

 新基地の運用が始まると周辺で騒音被害が増加する恐れがある。政府は海上に基地があることなどから騒音被害は「大きくない」などとするが、米軍が集落上空を飛行しない担保はない。

 2011年12月、沖縄防衛局が県に提出した環境影響評価書は、騒音被害について「滑走路は海上に設置され、住民居住区域から物理的に距離を置く」ことから「住民に対する騒音被害は大きくない」と説明した。

 一方で、飛行経路について「管制官の指示、安全、パイロットの専門的判断、運用により(場周経路から)外れる場合もある」と明記している。

 辺野古に配備される計画のMV22オスプレイは、現在、普天飛行場周辺で常態的に日米間で合意した経路外で飛行する。航空機騒音規制措置(騒音防止協定)で運用が制限される午後10時以降の飛行もたびたび確認されているのが実情だ。

 (佐野真慈)