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国連との面談重ね、対話の流れ止まらないように 県の“地域外交”ノウハウ蓄積に手応え <沖縄の訴えの波紋・知事国連訪問>中


国連との面談重ね、対話の流れ止まらないように 県の“地域外交”ノウハウ蓄積に手応え <沖縄の訴えの波紋・知事国連訪問>中 特別報告者のスーリヤ・デヴァ氏と面談し、沖縄の実情について直接伝える玉城デニー知事=19日午後5時(日本時間20日午前0時)すぎ、スイス・ジュネーブの国連欧州本部
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 玉城デニー知事は、18日から21日までの国連訪問の間に3回の会議でスピーチする予定だったが、時間切れなどで18日の1回のみにとどまった。意見表明の機会は限られたものの、特別報告者や独立専門家との面談を実現させ、米軍基地から派生する問題が沖縄の人権を侵害している実情を直接伝えられたことに、知事は大きな手応えを感じている。(沖田有吾)


 特別報告者は、特定の国の状況やテーマについて調査、報告をするために人権理事会から個人の資格で任命された専門家で、人権問題について報告書を作成する役割を担う。特別報告者との面談は実際の調査、報告につながる可能性があり実効性が期待される。

 玉城知事は18日に有害物質を担当するマルコス・オレリャーナ氏と、翌19日には発展の権利を専門とするスーリヤ・デヴァ氏と面談し、沖縄に来て調査をするよう要望した。玉城知事は特別報告者や国連機関の幹部と面談し「人権、自己決定権、民主主義、差別撤廃、軍縮、環境問題など多くの点で沖縄県に共感する部分が多いと認めてもらえた。これからにつながる成果だ」と胸を張った。

 特別報告者として報告するためには、日本政府の招きを受けての公式訪問が必要となる。ただ、シンポジウムなどの機会で非公式に訪問し、現状を見聞きすることで後の活動に生かす方法もある。 今回の面談をどう成果につなげていくべきか。県幹部は「今回は知事が言うように『キックオフ』。前回のように訪問後に流れが止まらないように働き掛け続けることが重要だ」と話した。

面談を終え、国連人権高等弁務官事務所を後にする玉城デニー知事ら=20日午前11時45分(日本時間20日午後6時45分)ごろ、スイス・ジュネーブ

 

今回の玉城デニー知事の国連訪問は、県庁の関わりという点で、前回2015年の翁長雄志前知事の訪問時と大きく異なる。前回は発案の段階から島ぐるみ会議国連部会が主導的な役割を果たし、NGOの市民外交センターの発言枠を譲り受ける形で、短い準備期間でスピーチやサイドイベントの開催を実現させた。反面、県庁には国連とのやり取りの詳細な記録などが残っておらず、組織的な経験の蓄積という面で課題を残した。

 玉城知事は2期目の当選を果たした直後から国連訪問の意向を示し、準備を進めた。県から委託を受けた、新時代ピースアカデミー共同代表で、市民外交センター代表の上村英明氏は「沖縄の市民が国連に訴える道を開くことが一番大事だ」と話す。

 今回の訪問では、国連人権高等弁務官事務所と国連難民高等弁務官事務所の幹部との面談も実現した。国連軍縮事務所ジュネーブ事務所のキャロライン・メラニエ・レジンバル所長からは「軍縮は国レベルでの取り組みだが、人間の安全保障のためには地方政府の参画が不可欠だ」「知事の来訪で、国際社会での平和構築のために地方政府の役割は重要だと感じた」などの発言があったという。

 国連機関関係者との面談は、県ワシントン事務所がアメリカ・ニューヨークの国連本部関係者からの勧めを受け、県として独自に面談の約束を取り付けたという。これらの成果で、県は国連の人権システムに継続的なつながりを作るための足がかりとしたい考えだ。

 一方、経験不足が垣間見える場面もあった。19日に予定されていた有害物質についての会議では、時間切れであと一歩のところでスピーチできなかった。上村氏は、同じNGOが複数の会議で発言枠を取ると発言の順番が遅くなりがちだとして「2回目の会議以降は、他のNGOと手を組むことで発言の優先順位を上げられる。今後、継続的に訴えていくにはこういったテクニックも必要になってくる。流れが見えてくると、いろいろなことができるようになる」と話す。

 県は4月に地域外交室を立ち上げた。玉城知事は来年度から課に格上げする意向を示している。「例えば地域外交課にセクションを作り、市民グループの県内での活動と、国連をつなげていくことも可能ではないか。地域外交の強みを発揮できるように、国連の関係機関などとの連携も構築していきたい」と意欲を示した。

 ある県関係者は、今回の訪問について「準備は大変だったが、行ってみれば国連はそれほど遠くないと感じた。対話をするための場で、声に耳を傾ける姿勢がある」と話し、経験の蓄積に手応えをつかんだ。