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早期発見、治療でHIVのコントロールを 検査アクセスの向上が重要 琉球大病院・仲村秀太医師に聞く


早期発見、治療でHIVのコントロールを 検査アクセスの向上が重要 琉球大病院・仲村秀太医師に聞く 琉球大学病院第一内科の仲村秀太医師(提供)
この記事を書いた人 Avatar photo 吉田 早希

 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染して発症するエイズはかつて「死の病」と呼ばれたが、その後治療は大きく進歩した。現在は、HIV感染を早期発見し、適切な治療を継続することで、普段と変わらない生活を送ることができる。一方、新型コロナウイルスによる業務逼迫(ひっぱく)で減少した保健所での検査件数は、コロナ禍前の水準には戻ってはない。エイズ治療中核拠点病院である琉球大学病院の第一内科で、HIVを含めた感染症診療に当たる仲村秀太(ひでた)医師(感染症専門医)に、県内のHIV検査体制の現状や課題について聞いた。 (聞き手・吉田早希)

 ―県内の感染状況は。

 「沖縄では昨年度、診断される方の半数が非常に病状が進行した段階だった。エイズ発症後にHIVに感染したことが判明する『いきなりエイズ』の割合は50%と、全国平均の30%を上回って推移しており、診断の遅れが目立つ」

 「検査をためらう間に病状が進行してしまったケースや、ご本人がHIV感染のリスクと検査の必要性を自覚していなかったケースもある」

検査数が激減

 ―県内のHIV検査体制の現状と課題は。

 「全国と同様、沖縄では長らく保健所がHIV検査の中心的な場になってきた。コロナ禍における保健所の業務逼迫(ひっぱく)で、これまで年間2千件あった無料匿名検査件数が、2020年以降激減した。コロナの制限が段階的に解除されるに従い、保健所も少しずつ余力が出て件数は回復してきたが、依然としてコロナ禍前にはほど遠い数字だ」

 「理由はいくつか考えられる。一つはコロナ禍による業務逼迫で保健所の検査能力が下がっている可能性がある。二つ目は、人々の行動様式そのものの変化だ。保健所に行き検査するという認識が、皆さんの中から薄れてしまっている可能性も考えられる」

 ―民間の医療機関でも検査体制を整えてきた。

 「保健所の業務負担を軽減することを目的に、民間医療機関に依頼しHIV検査外来というものを立ち上げてきた。大きなメリットは、例えば土日や夕方も検査を受けられるなど、時間がフレキシブルで多様なニーズに応えられることだ。また、普段の生活の中で保健所に行く機会はあまりない。クリニックや病院であれば、行くこと自体が不自然に映らないので、周りの目を気にしなくても利用できる」

 「HIVや梅毒などの性感染症を疑う症状がある場合、検査に際し健康保険が適応される。一方、無症状だが本人が自費検査を希望する場合、内容にもよるが、HIV検査だけでも5千~6千円かかる」

オンライン体制

 ―検査しやすい環境を整えるために必要なことは。

 「検査を受けなければHIVの実態は分からないため、検査アクセスの向上は非常に重要である。検査アクセスをよくするための課題として、夜間や週末も検査が受けられることや、無料あるいは検査コストを抑えること、匿名で受けられることが挙げられる」

 「加えて、オンラインで検査予約ができる環境を整えることが必要だ。保健所や民間医療機関の大部分は電話で予約を受け付けているが、電話がつながりにくい場合や、電話予約に勇気がいるという声も聞く。那覇市保健所はSNSでHIV検査予約ができるが、県内の他保健所や医療機関でもこのような環境が整うことが望まれる」

 ―予防や治療で重要なことは。

 「国際的には複合的予防戦略が非常に重要視されている。(1)検査アクセスの向上(2)セーファー(より安全な)セックスの啓蒙(けいもう)(3)U=U(効果的な治療を続けていればパートナーにHIV感染させるリスクはない)のメッセージ(4)内服薬でHIVを予防する曝露(ばくろ)前予防内服(PrEP=プレップ)―の四つを指す。これらを推進し、新規のHIV感染を減らして、2030年までに世界的流行を終わらせることが、国連合同エイズ計画をはじめ全世界の目標だ。現時点でプレップは国内で正式に認可されていないが、今後処方体制づくりが求められる」

普段通りに生活

 ―県民にどういう意識が広がることが大切か。

 「HIVの治療は大きく進歩している。1日1回1錠の服薬だけでなく、最近では2カ月に1回の筋肉注射でウイルスを抑えることも可能になっている。できるだけ早期に診断し治療を開始することで、普段通りの生活を送ることができる。また、治療でHIVをコントロールすることでパートナーにHIVをうつすリスクはゼロになる。自然妊娠で子どもを授かることも可能だ。その一方で、診断の遅れが命に関わることがいまだあることも事実だ」

 「本来セクシャルヘルス(性の健康)は、健康診断やがん検診と同じくらい大切だ。定期的に検査を受けることは自分、ひいてはパートナーを大切にすることにつながる。19年には那覇市医師会が外部との共同研究事業で、健康診断や人間ドックの受診者にHIVと梅毒の無料検査を提供する取り組みを行い、実際に検査を希望する人は多かった。検査アクセスを増やすためにも、公費での検査費用助成など行政の支援をしたい。検査の場を広げることが重要だ」