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【深掘り】識者「戦死リスク 国民に説明を」 防衛省関係者「タブーだが現実」 自衛隊、隊員遺体扱い訓練へ


【深掘り】識者「戦死リスク 国民に説明を」 防衛省関係者「タブーだが現実」 自衛隊、隊員遺体扱い訓練へ 防衛省
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 防衛省・自衛隊が戦死した隊員の遺体取り扱い訓練を県内で実施しようとしていることが明らかとなった。南西地域での実戦を想定して訓練の幅を広げる一環だとみられる。有事になれば犠牲者が生じるリスクを認識していることがうかがえるが、国民向けの説明には消極的だ。

 【本記:沖縄で「隊員戦死・遺体扱い」訓練へ】

 ある防衛省関係者は「戦死の経験がない自衛隊内では、ある意味タブー。戦死を前提とした具体的な訓練は組織内でも国民にも受け入れられるのか」と懸念する一方「向き合わなければならないことだ。現実的に考えると必要な訓練だ」と語った。
 防衛省・自衛隊は近年、前線での戦闘に関する訓練だけでなく、補給や衛生などの兵たん分野を重視している。長く戦い続ける能力の向上を図るためだ。10月の日米共同訓練「レゾリュート・ドラゴン23」でも県内では負傷者搬送や物資輸送の訓練が展開された。こうした延長線上に戦死者の遺体を取り扱う訓練も位置付けられる。
 自衛隊関係者の一人は「全国各地の部隊ごとの判断で訓練しているが、訓練による周辺地域に影響がなく、家族の不安をあおらないようにするため公表しない」と話した。一方、別の自衛隊関係者は「大規模な実動演習に組み込んだ例は珍しい」と語った。今後、戦死者の対応に関しても米軍との協力が図られるとみられる。
 陸自に30年以上在籍した元陸将補の吉富望日本大教授は「戦没者の対応の必要性は長年、自衛隊内でも認識されてきたが、図上訓練が主だった」としつつ「ご遺体の搬出や収容が難しい島しょ部の沖縄で対応しなければならないという切迫感が表れたのではないか」と分析した。遺体の取り扱い訓練について「士気を高めることにつながり、意義がある。国民にも正直に話した上で実施すべきだ」と話した。
 ジャーナリストの布施祐仁氏は「イラク派遣時に『非戦闘地域で活動』と言いながら、国民にも隊員にも知らせずに戦死者が出た場合の手順や棺おけを用意していたことと重なる」と指摘。「南西地域での軍備強化も『抑止力が高まる』と強調する一方で、戦争になった場合のリスクを明らかにしない。現実に戦死者が出ることを想定して訓練していながら国民に説明しないのは不誠実だ」と批判した。
 訓練の詳細は公表されておらず、今回の訓練は戦死した隊員を想定したものだ。地域住民の被害はどうなるのか。明らかになっていない。
  (明真南斗)