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【識者談話】自治を巡り憲法を問う 玉城知事は県民世論に立脚 仲地博氏(沖縄大名誉教授)


【識者談話】自治を巡り憲法を問う 玉城知事は県民世論に立脚 仲地博氏(沖縄大名誉教授) 仲地博氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古の新基地建設問題で、大浦湾側の軟弱地盤改良工事の設計変更申請の承認を巡り、斉藤鉄夫国土交通相が玉城デニー県知事を訴えた代執行訴訟の第1回口頭弁論が30日午後2時、福岡高裁那覇支部(三浦隆志裁判長)で開かれる。訴訟の見方について、仲地博氏(沖縄大名誉教授)に聞いた。


 最高裁で県敗訴の判決があったにもかかわらず、玉城デニー知事は設計変更申請を承認しない姿勢を貫いた。それに対して、法治国家に反する言動という批判が出るのは当然に予想された。国に至っては、司法の場で決着済みの事柄を放置する県は、違法かつ異常な事務遂行とまで論断している。権力分立の下、行政権は司法の判断に服さねばならない。玉城知事の苦悩は深かったと思う。

 しかし、事はそれほど単純ではない。憲法はさまざまな価値や原理を内包し、相互に対立し矛盾することがある。例えば、法の下の平等(14条)を定めながら、世襲の天皇(2条)を認めている。14条と2条の対立である。また表現の自由(21条)は、人権の中でも重要なものであるが、絶対ではない。制約のない表現は、個人の名誉や尊厳(13条)を損なう場合がある。21条と13条の対立である。

 憲法政治の実態もそうである。1票の平等を巡り、司法権が繰り返し公職選挙法の違憲性を指摘しても、国会の動きはにぶい。古い話だが、県内でも読谷村楚辺通信所内の個人の土地を、国が1年以上も法的根拠がないまま占拠した事実がある。だから、知事も最高裁判決を無視していいという議論ではない。最高裁判決に抗する大義があるか、法治主義に対抗する価値の主張があるかだ。他方で判決に従わないことで失われるものは何かを考慮しなければならない。

 憲法は、1章を設け地方自治を保障した。地方自治の中身は、県民の意思による政治(住民自治)であり、国に従属しない独立性(団体自治)である。設計変更を承認しないことは、埋め立て反対の県民世論に立脚した、憲法の保障する自治の主張なのだ。

 沖縄は平和と自治を巡り憲法を問う地である。大田昌秀元知事は不動と思われた機関委任事務を拒否し、地方自治の深化に貢献した。玉城知事も地方自治という憲法上の価値の実現を目指し法廷に立つ。 (行政法)