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【識者談話】承認しないことが公益 本多滝夫氏(龍谷大教授)


【識者談話】承認しないことが公益 本多滝夫氏(龍谷大教授) 本多滝夫氏(龍谷大教授)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 代執行訴訟は、国から見れば「違法な」事務処理だが、住民のためにあえて是正しない自治体の長が存在することを前提としている。代執行の要件の一つ、「放置することにより著しく公益を害することが明らかであるとき」は、地方自治の侵害となる代執行を抑制するために定められた特別な要件だ。この要件を満たさなければ、長は「違法な」事務処理をそのままにしておくことが許容される。

 埋め立て変更承認をしない知事の対応に即してみるならば、いつ完成するかも分からない新基地建設を国が諦め、ただちに普天間基地の使用の停止のために県と対話をすることこそが県民にとって公益の実現につながる。知事が承認をしないことの方が公益の侵害の発生を防止するのであってその逆では決してない。

 口頭弁論では、辺野古唯一論に乗っかって、著しい公益侵害が生ずるとする国側の主張に対して、知事はその誤りを逐一具体的に指摘するとともに、県民が示す新基地建設反対の明確な民意こそが公益とされなければならない旨を堂々と主張した。県民の民意が法的な主張として顕現した瞬間だ。代執行訴訟が県民の矜持(きょうじ)を示す機会となったことに確信をもってよいだろう。

 裁判所には、代執行訴訟では普天間基地の危険性の除去は喫緊の課題だといい、普天間爆音訴訟では普天間基地は周辺住民の利益にとって重要だという公益に関する国の二枚舌をしっかりと見抜いて、民意を正面から受け止めた判断をしてもらいたい。

 なお県は、是正の指示取り消し訴訟で最高裁がしなかった不承認処分の適法性の判断を代執行訴訟の裁判で求めていた。そのためには審理がもっと必要とされるが、結審ということは高裁にはその求めに応えるつもりがないようだ。この争点について国は、不誠実にも立証を怠っている。裁判所は立証不備として請求棄却の判決をすべきだ。

 (行政法)