<金口木舌>まだ見ぬ親戚と「兄弟」


<金口木舌>まだ見ぬ親戚と「兄弟」
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 「いちゃりばちょーでー」のはやしで知られる民謡「兄弟小(ちょーでーぐわぁー)節」に「嵐世(あらしゆー)ぬ中ん/遭(くー)ぢ渡てぃ互(たげー)に/又いちゃるくとぅんあてる嬉(うり)しゃ」という歌詞がある。戦世(いくさゆ)を超え、また出会える喜びを表す

▼作詞は沖縄民謡の黄金期を支えた故前川朝昭さん。満州で兵役を務め、南洋で終戦を迎えた。帰郷後に琉球古典音楽の道を歩み、海外にも多くの弟子を持った。前川さんの人生を知ると歌詞に重みが増す
▼フィリピンのアカヒチ・サムエルさん(81)も嵐世を生きた。日本軍による捕虜虐殺事件があったパラワン島生まれで、県出身の父カメタロウさんは抗日ゲリラに殺害された。高齢となった今、父の親戚を捜している
▼親戚捜しに立ち上がったのは、「赤比地(あかひじ)」の姓が多かった平安座島の住民たち。「香村」や「赤井」と改姓した人も含め、島の人々が家系図を持ち寄り、聞き取り調査に応じている
▼アカヒチさんは12月に来沖する予定だ。まだ見ぬ親戚に会えるのを心待ちにしているに違いない。対面の場では、心強い「兄弟」たちとも出会えるはずだ。