<金口木舌>感覚の確認と発見


<金口木舌>感覚の確認と発見
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 美術館を出て空や街に目を向けると、いつになく美しく見える時がある。「普段からその美しさを意識できているわけではなくて、その美しい風景を見せてくれたのは作家たちの目なんですよね」

▼小説家の又吉直樹さんが週刊誌のネット記事で語っていた。いろんな人の絵を見ると、自分の感覚にたまっていたゴミがとれ「感覚の確認と発見」に至る。それは文学の面白さに近いという
▼豊見城市出身の逢崎遊さん(25)が第36回小説すばる新人賞を受賞した。受賞作は「遡上の魚」を改題した「正しき地図の裏側より」
▼物語は、ひどい仕打ちをした父に怒り、殺した青年の心の変遷を描く。故郷を去り、苦労して、人との出会いを通して変わっていく様子は「感覚の確認と発見」を重ねていくよう。ついには父を見詰め直す
▼逢崎さんは「1人で書き続ける時間が長かった」と言う。くじけそうな気持ちを支えたのは読者の感想だ。「大海原の羅針盤のように」進路を示してくれた。新星が誕生した。これから、どのような風景を見せてくれるか楽しみだ。